隣の席の彼は真っ赤な髪をしている。
彼は所謂不良というやつで、つるんでる子達も見るからにガラが悪いし悪い噂もたくさん聞いた。ついでに喧嘩してるところを見たこともある。

そんな彼に最初はずっとびくびくしていたが、最近なんとなくそんなに恐い人じゃないんじゃないかと思うようになった。

それは例えば女の子に絡んでるところは見たことがないとか、仲間におだてられて笑ってる顔が子供みたいだとか、前にお年を召した先生に高いところの荷物をとってあげていたのを見たとか、なんというか恐い人、よりも恐くない人、というイメージが強くなる場面をたくさん目撃したからかもしれない。

そして今日。
彼…桜木花道君が授業中に盛大に腹を鳴らせいかにも空腹で力が出ません…といった様子だったため思い切って接触を図ってみた。


「桜木君」


幸い先生は優しいおじいちゃん先生なため多少話していても怒られない。
それでも一応、と桜木君の方に体を乗り出し小声で名前を呼ぶ。ギラリ、と睨まれたが空腹で気が立っているのだろうと判断。現にすぐバッと顔を上げ戸惑った様子を見せるのだから彼は基本的に女性に優しく、そして初なのだろう。


「おなか、すいてるの?」


私の問いかけに戸惑いながらもコクコクと頷く桜木君。
今は五時間目。…お昼、食べ損ねたのかな?


「これ、お腹の足しになるかわからないけど…」


そう言って渡したのは常備しているお菓子袋に入っていた五枚入りのクッキーの袋。


「今授業中だからそれで我慢して」

「あ、ありがとうございます!」

「ばっ、声大きい!」


何人かがこちらを振り向いたけど…殆どが睡眠学習中なためそこまで注目をあげずにすんだ。

彼はと言うと一心不乱にクッキーを貪っている。そんなにお腹すいてたのか。

授業はあと五分。取り敢えず隣の席から聞こえた腹の音は鳴り止んでいた。






「いやー、本当にありがとうございました!」


がはははは、と笑う桜木君につられついこちらも笑みを浮かべてしまう。
敬語、似合わないなぁ。
だけどなんだろう…やっぱり恐くない。


「お腹まだすいてるならパウンドケーキあるよ」

「本当ですか!?」

「甘いの平気?」

「大好きです!」


ちなみに今は休み時間。六時間目は自習だから今あげても迷惑にはならないだろう。


「桜木君部活やってるっけ」

「天才バスケットマン桜木花道です!」

「ははっ、自分で天才とか言っちゃうんだ。
身長高いからバスケット似合いそう。バナナとチョコのケーキだからちょうど良かったかも」


特売で買ったバナナがそろそろ危ないと昨日作ったパウンドケーキ。材料があるだけ作ったら大量になってしまい…処理に困っていたものだ。ごめんなさい桜木君。そしてありがとう。


「ちょうどいい?…うまい!うまいです牧野さん!」

「バナナはスポーツする前に食べるといいって言うから…あはは、ならよかった」


なんていうかここまで美味しそうに食べてくれると嬉しい。

と不意に視線を感じそちらを見れば桜木君のお友達…通称桜木君軍団と呼ばれる四人がこちらを見ていた。

水戸君は面白そうに、他の三人は信じらんない物を見るように。

そんな四人は私が気付いたのに気付いてか私達の元にやってくる。ちなみに桜木君はパウンドケーキに夢中でまだ気付いてない。
「花道!お前いつの間に!」

「女の子の手作りケーキなんてものを独り占めにしやがって!」

「俺達にも寄越せ!」

「ぬ、貴様らどこから現れた!」


わいわい騒ぐ四人を呆然としながら見ていたらさり気なく水戸君がケーキをひとかけら摘んでそれを見つけた桜木君がまた騒ぐ。

そんなやりとりを見ていたらつい笑いがこぼれてしまう。


「ごめんな牧野さん、うるさくて」

「んーん、楽しい」


なんだ、桜木君だけじゃなく他の四人も怖くないのか。見ていてとても楽しい。


「ケーキ、まだあるからよかったら」


みんなで食べて、と鞄からもう一本パウンドケーキを取り出し五人に渡す。


「あれ、どっか行くの?」

「うん。次自習だから図書館行こうかなって」

「偉い」

「漫画がね、いくつか置いてあるんだけど読みかけなんだ」

「漫画か」

「うん。漫画」


わいわいとケーキを取り合う四人を尻目に水戸君との会話。

水戸君は綺麗に笑うんだなー。


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