まずは…どこから話そうか。


「私は東の端にある島国の出身で、私の国では自国の名前を日本と呼んでいました」

「ニホン…聞いたことがないな」

「港は閉じていましたし、どういう技術かわかりませんが国の外に出ることも外から国に入ることも出来ませんでした。けれどある日、国に外からの船がやってきました」

「それが奴隷商船だった、と」


ジャーファル様の言葉にこくりと頷く。


「私も捕まりかけて…父と母が港にとまっていた漁船に隠してくれたんです。浚われたのは皆若い娘でしたから。
暫くその船に身を隠して朝が来たら家に戻る予定でした。だけど嵐が来て私が乗っていた船は運悪く流されてしまい…」


そこから記憶が混乱し気がつけば砂浜に倒れていた、と説明する。
嘘を吐くのは忍びないけど。


「それから商人さんに拾われ色々なことを教わりました。私の国とは何もかもが違っていて戸惑うばかりでしたけどなんとか馴染んでいた頃に、」

「奴隷商人に捕まった」

「はい。船から降りて一人になった僅かな時間で気絶させられ目が覚めれば手足を縛られて船に乗っていました」


そしてすぐに毒を飲まされ2日間、まともに動けなかった。


「縛られて?枷ではなく?」

「多分、なんですけど…」


あの男達の言っていた言葉を思い出しながら口を開く。


「奴隷、というより慰め者として売ろうとしてたんだと思います」


あの男達は言っていた。傷をつけるな、と。
4人が、息を呑むのがわかった。


「黒髪黒眼で肌が白く傷があまりない生娘、という注文だったみたいだったので」

「…それは商人達が?」

「そう言ってました。
だから枷も付けてはならないと…そのおかげで逃げれたんですが」


いくらなんでも枷をつけられたら逃げれなかっただろう。縄だったから隙をついて切ることが出来たのだ。
毒を飲ませ声を出ないように喉を焼くのもおそらくその主とやらの性癖が関係しているのではないかと思う。


「海に飛び込んだんでしたよね」

「はい。…本当は、もう少し様子を見て逃げようと思ったのですが、その…事情が変わりまして」


事情?と首を傾げる4人に、これから先は少し言い辛くてつい躊躇してしまう。


「…生娘かどうかを確かめると言われて」

「…っ、それって…!」


ヤムライハ様が悲痛そうな声を上げる。
…ああ、そんな顔をさせるつもりじゃなかったのに。


「あ、いえ…生娘であることが最低条件なようでしたのでせいぜい指を入れられる程度だとは思うのですが、」


まさか商品価値を無くすようなことをわざわざしないだろうから。だからそんな顔をする必要はないのだ。


「ただ、その、残念ながら生娘ではない…のでそれがバレたら殺されるかなぶられるか奴隷として売られるか…どう考えても良い方向に転ぶとは思えなくて」

「それは…そう、ね…」


人前で生娘じゃない発言をする日が来るとは思わなかった。

恥ずかしさのあまり顔に熱が集まるのがわかったが同じように耐性がないのかヤムライハ様も少しだけ気まずげな顔をされていてそれがとても可愛らしく感じられた。


「海に飛び込んだ時は死を覚悟しましたが、ラノが寸での所で助けてくれたんです」

「ラノ君って本当に賢いよね!」

「はい、とても」


ピスティ様は笛を使って動物を友好的にさせることが出来るのだとかなんとか。
私は動物に好かれやすい体質なだけなのだけど、それでも動物に囲まれたりラノと会話をしているのを目撃されたりして気になっていたのだと初めて会ったときに言われた。

ピスティ様も動物の中では鳥が一番仲良しなのだという。


「そこからは私たちが知っている通り、と」

「はい」


本当に、なんと感謝したらいいか…
そう言いながら流石にソファーの上では正座は出来ないためその場で深く頭を下げる。

こんな怪しい人間を拾ってくれただけでなく手厚く看病までしてくれたのだ。どんだけ感謝してもしたりないくらいだ。

頭を上げてなんとなしに視線の先にいるシンドバッド王の後ろにある窓を見る。
綺麗な空。だけど…


「―――!」

「すずり?」


顔色を変えてバッ、と立ち上がった私をピスティ様が驚いたように見上げる。

だけどそれに反応している暇は、ない。

ぴゅう、と指笛を馴らしながら窓に駆け寄りそのまま飛び降りる。
後ろで悲鳴があがるのを聞きながら飛んできたラノの背中に飛び乗り、視線の先にいる鳥を追いかけた。
ラノより少しだけ小さいその鳥はそれでもかなり大きく、飛ぶスピードも速い。

だけどそんなことを言ってる場合じゃないのだ。
大きな黒い鳥。その足にしっかり掴まれているのは―――人間の子供なのだから。

ラノが一気にスピードを上げ黒鳥の前に先回りする。
私はラノの背中を蹴り上げ黒鳥の背中に飛び乗ると、振り払おうとする黒鳥の頭に額をつけて「その子を返して」と呟く。
黒鳥は少し悩むように間をおいて、バッと子供を離した。


「ラノ!」

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