彼の人曰わく
「服装が船乗りのそれだった上に体系もわからず…声も出なかったため全く疑いませんでした。
それから何よりシンが"少年を拾ってきた"と言いやがりましたので…」
ということらしい。
廊下での発言の後、たまたま通りかかった(ジャーファル様がいない隙を見て逃走中だった)シンドバッド王をジャーファル様が縛り上げ、執務室への連行までの間その後ろに並びながら上記の説明をされた。
シンドバッド王はというと、どうやら私が女だということは初日に錯乱した私を抱き上げたときに気付いたもののジャーファル様に訂正するのを忘れていたのだという。ジャーファル様に踏みつけられるシンドバッド王に心の中で合掌。
まあ、確かに私の服装からは判断がしにくいだろうとは、思う。
ただでさえ男性用に作られた服を着ているからダボっとしているのにその上から布を斜めに掛けて右肩でとめているため体系はわかりにくい。服自体も上着がお尻を隠すくらいの長さだし、なによりさらしも巻いてるから。
「そういえばいつもその格好よね?何か理由があるの?」
「船から降りたところを浚われたので着替えが同じ形のしかなくて…。
私がお世話になっていた船だけかもしれませんが海の神様は女性だから嫉妬されないようにあまり女性は乗せないのです。乗せるとしてもこうやって他の船員と同じ服を着てわからないようにするっていう風習があって」
海の神様云々は昔の日本でもあったと思った。
ヤムライハ様とピスティ様の問い掛けに答えながらそんなに女に見えないものかと自分の体を見下ろした。
「実は私も最初見たときにどちらかわからなかったの。だけど侍女の子達が教えてくれて…」
ヤムライハ様の言葉にハンナさん達を思い出す。彼女たちは皆私の性別を知っていた。シンドバッド王に拾われた私の世話をしてくれたのはハンナさんらしいのでそこからみんなに伝わったのだと思う。
「ジャーファルさんに初めて会ったときもその格好だったの?」
「はい。一応、服は替えられてはいたのですがさらしを巻いているのを見て何か事情があるのでは、とまた同じように巻き直して私の荷物にあった服を着せてくれたらしくて…」
国のしきたりや宗教の関係で男の格好をしているのでは、と気を使ってくれていたのだと聞いた。ちなみにこれは先程までずっと勘違いされていたらしい。
お昼の時にハンナさんに聞かれて訂正したら驚かれてしまった。
「何!?さらしを巻いているのか!」
「何に反応しているんだあんたは!」
前方でそんなやりとりと、その後ガッ、という音が聞こえたが知らぬ存せぬを貫いておこうと思う。
「(それにしても…)」
頬を軽く揉みながらはぁ、と息を吐く。
「どうかしたの?」
「あ、いえ…久しぶりに話したからか顎と頬が少し痛くて」
ずっと使ってなかったからかツったような痛みを訴える頬と顎。
出来るだけ部屋の中を歩き回るようにしていたし3日前、ある程度なら宮殿内を自由に歩いていいと許可を得てから散歩もしていたから足腰はあまり弱ってないけど前みたいに重い荷物を持って走り回ったりするのは難しくなっているかもしれない。
せっかくこの半年で筋肉がついたのに。
「10日も話してなかったものね…」
「そういえばなんで喉をいためたの?」
ああ、ピスティ様とヤムライハ様には喉を痛めて話せないという事しか説明していなかったか。
そこでちょうどシンドバッド王の執務室に着いたのでシンドバッド王に薦められるがままにソファーに腰掛ける。シンドバッド王は勿論、机に縛り付けられている。
「私達にももう一度詳しい話を聞かせていただけませんか?」
筆談だけではわからないこともありますから。
そんなジャーファル様の言葉にこくんと頷き口を開く。
…頬の筋肉、大丈夫かな…
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