―おじさんからの荷物にあった小箱の中身はペンダントだった。

私が拾われた町には町を出て旅立っていく息子や嫁にいく娘に首飾りやペンダントを贈るという。
平和に暮らせますように、
そしていつでも帰ってきなさいという意味を込めて。

その風習は知っていたけどまさか自分がそれを貰えるとは思ってなくて
―少しだけ、泣いてしまった。






「順調に治ってますね。あと2日もすれば完治しますでしょう。
大きな声を出したり歌ったりしない分には普通に話しても大丈夫ですよ」


そんなお医者様の言葉にホッと息を吐く。
この国に来てから10日。少しずつ声は出せるようになったものの、やはり痛みは伴う為不便な生活は続いていた。

だからこそ、この診断はとても嬉しいものだった。


「ありがとうございます」

「いえ、よかったですね」

「はいっ」


久しぶりに普通に話せる。まだ少し声は嗄れているけど声を出せないよりずっといい。

いくつか注意事項を聞いた後お医者様は部屋を出て行かれ、先程までやっていた文字の練習を再開する。暇つぶしに、と侍女さんが定期的に持ってきてくれる本のおかげで今までわからなかった単語や接続語などを覚えることが出来て昨晩仕事から逃げ出してきたシンドバッド王に驚かれた。

元々、記憶力はいい方なのだ。

そういえば、この世界の言語は基本的に一つだけらしい。それは此方の世界に来てすぐ知ったのだけど、文字とかは違うのかな。…確か煌…帝国?は漢字を使うみたいだったけど。
あっちでいう中国みたいなもんなのだろうか。

文字が違うということは此方の世界の本なら外国の物でも関係なく読めるんじゃないかという目論見は泡に散ることになるな…。っていうかこの世界って本じゃなくて巻物なんだよね。巻物って新鮮だけど慣れなくて少し読み辛い。

そうしている内にいつの間にかお昼ご飯の時間になっていて、ご飯を運んできてくれたハンナさんに声を出しても良くなったという旨を話したら「おめでとうございます!」と満面の笑みで返され少しだけ照れてしまった。美女の笑顔の威力は凄い。


美女といえば、
この数日で変わったことがいくつかある。
まずは文章を書けるようになったこと。
それからある程度王宮の中を自由に歩けるようになったこと。
侍女さんにこの国のことをいろいろ教わり八人将という方々が存在しジャーファルさんがその中の一人だということも知った。ので、呼び方がジャーファルさんからジャーファル様に変わった。

あとは何より…


「あ、すずり!」


友達が、出来たことだろうか。

名前を呼ばれ振り返ればくるんとした瞳の美少女さん。
最近知り合ったピスティ様だ。
隣にいるのは同じ八人将のヤムライハ様と…ジャーファル様。

ジャーファル様は私達が知り合いだと知らないからか驚いたような顔をしている。

珍しい組み合わせにいつものように頭を下げて、ふと気付いた。
私、声出していいんだった。


「こんにちは」

「え?」

「すずり、今…!」


思った通りの反応をしてくれるお二人に小さく笑いながら頷く。


「先程お医者様に診ていただいて大声を出したりしなければ普通に喋っていいと…」

「わぁ、よかったねっ」

「ありがとうございます」


お礼を直接言えるって、いいなぁ。

それより、


「あの、ジャーファル様?」


何故か先程から固まっているジャーファル様に首を傾げながら名前を呼べばピスティ様とヤムライハ様もジャーファル様を振り返って首を傾げる。
どうか、されたのだろうか。


「ジャーファルさん?」

「あっ、いえ、その…」


下からのぞき込む様にジャーファル様を見上げるピスティ様の問い掛けにやっと正気に戻ったジャーファル様は、珍しくしどろもどろになりながら顔を逸らしてこう言った。


「―女性、だったんですね」


…と。


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