「よく眠れましたか?」


そんなハンナさんの言葉に頷きながらもその答えは否だった。
本当は眠れなかったけど…わざわざそれを言う必要はないし。ちなみにそれは昨晩だけでなくここに来て3日目になる今日まで夜はほとんど寝れていない。
昼間も寝てないけれど。

朝ご飯はミルク粥のようなものと初日に出して貰った桃だった。お米じゃなく別の穀物だったけど美味しくて少し喉が痛むのも気にせず平らげてしまった。

眠れなかろうが弱ってようが食事だけはしっかりとれるのはいいのか悪いのか。まあ、いいということにしておこう。

パソコンも携帯もないこの世界は時間を潰すのが難しい。この半年、やることが全くないということはなかったからなんか…困る。昨日はジャーファルさんが持ってきてくれた本を読んでいたのだけどそれも読み終わってしまった。

―ラノがいたらラノと遊べるのに。

自分で用事を頼んだくせにそんなことを考えるなんて、と自分に苦笑しながらそう言えば昨日はシャワーを浴びずにベッドに入ったことを思い出しシャワーを浴びることにした。

熱めのお湯で体を流しながらふう、と息を吐く。
ああ、異世界に来ようがやっぱり私は日本人。お風呂は大好きだ。
髪も体もしっかり汚れを落とし、置かれていたタオルで水気を拭っていく。
ふわりと香る石鹸の匂いが心地よかった。

着替えは一種類しかないので仕方なく唯一手荷物にあった服を着る。船に乗るとき用の服でさらしを巻かなきゃ着れないから苦しいのだけどこればかりはしょうがない。最初着ていたものもこれと同じものだったりする。

船に乗っている間は同じデザインの物を何着か持っていきそれを着回すのだ。
なんでか、それはこれがユニフォームみたいなものだから。

今度外出許可が下りたら買いに行こう。僅かなお金しかないけどとりあえず二着くらいは買えるだろうし。


「(そういえば部屋の外に出て良いのかな…)」


わからない。わからない、ということは行動しないのが無難だ。
勝手なことをして怒られたらやだし。

そんなことを考えているとノックの音が部屋に響き、それから「失礼します」とドアを開いたのはハンナさんとは別の侍女さん。この人は確か…昨日のお昼ご飯を運んできてくれた人だ。


「シンドバッド様がお呼びです」


柔らかい笑みを浮かべ告げられた言葉に一瞬何かやらかしたか、と焦りながらも立ち上がり侍女さんの後ろをついてシンドバッド王の所まで案内してもらった。
私の代わりにノックをし、ドアを開けてくれた侍女さんに頭を下げて部屋に入る。

そこにいたのはシンドバッド王とジャーファルさん、それから…


「"ラノ?"」


何故かシンドバッド王のすぐ側の窓の外に鎮座しているラノ。
そろそろ帰ってくる頃だと思ったけど、なんでここに?

目を丸くする私にシンドバッド王は苦笑しながら口を開いた。


「さっき、急に訪ねてきたんだ。
首に下げた袋を加えて渡してきたんだが…」


そう言いながらシンドバッド王が見せたのはいつもラノの首に提げられている袋。
その中には手紙らしきものと、小さな箱が入っていた。


「最初は君にこれを届けて欲しいと言っているのかと思って受け取ったんだが何か訴えるようにこっちを見ていてな」

「そのまま立ち去る様子もないのであなたを呼んでもらったんです」


2人の説明を聞きながらラノのもとへと歩み寄る。

此方を見つめるラノの頬を撫でて額同士をくっつければ伝わってくるラノの感情。
それに小さく笑って体を離した。


「(ああ、この子は本当に…)」


なんて頭が良い子なんだろう。

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