「あんたみたいなデカ女誰も好きにならないんだから!」


そう投げ捨て立ち去っていく女の子をぼんやりと見送りぺたんとその場に座り込む。

ズキズキと痛む胸を押さえるようにギュッと制服を掴んでふるふると震える唇で小さく「知ってる」と呟いた。


きっかけはよくある話だった。
あの子の好きだった男の子と私が同じ委員会で、たまたまよろけた私をその子が支えてくれたのをあの子が見て勘違いをして、ただそれだけ。

別に虐めとかじゃないし、きっとすぐ誤解も解ける。ただ、


「あんたみたいなデカ女誰も好きにならないんだから!」


わかってる、わかってるよ
私みたいな子が誰かに好きになってもらえるなんてないってわかってる。
わかってるけれど、辛いだなんて。


「ふ…っ」


溢れ出す涙を隠すように膝を抱え顔を埋める。


「きつい、なぁ…」


今は放課後。体育館裏なんてきっと来る人はいない。だから今だけ、今だけ泣いてしまおう。
大丈夫、わかってたことだ。私なんて―――



「あれ?」



思考の海に沈み込んだ私は不意に聞こえた声にびくりと震え顔をあげた。



「牧野先輩、でしたっけ…って、泣いて…!?」

「きせ、くん」


あわあわとし出す黄瀬君に慌てて涙で濡れた顔を拭って誤魔化すように小さく笑う。


「大丈夫。気にしないで」


黄瀬君が私の名前を覚えてくれていたことにびっくりしたもののそれを表に出すことなくそれだけ告げた。


「大丈夫、って…」

「ごめんね、びっくりさせちゃって。ちょっとへこんでただけだから」


抱えていた膝を崩し立ち上がる。


「…俺、見てたんス」

「え?」

「休憩中で、たまたま水飲み来たら声が聞こえて…だから」


そっか、彼は聞いてたのか
大丈夫、あの子はそんなに酷いことは言ってなかったはず。
私が勝手に傷付いただけ。だから…


「本当に大丈夫だからそんな顔しないで」


まるで罪悪感に苛まれているようなそんな顔。
彼がそんな顔をする必要はないのだ。


「大丈夫じゃないじゃないっすか」


黄瀬君がまっすぐに私を見る。
その視線に全てを見透かされそうな気がして胸がどくんと跳ねた。


「大丈夫な人はあんな風に泣いたりしないッス」

「それ、は…」

「大丈夫には見えないッスよ」


だって、しょうがないじゃん
私はどんなに泣いても小さくはなれないんだから、大丈夫って言い聞かせなきゃ割り切れなくて、割り切らなきゃ、だめなのに、なのに、
黄瀬君の言葉に再び涙が溢れ出した、その瞬間だった



「黄瀬!休憩終わってん、ぞ…」



突然聞こえた声に黄瀬君と二人して体を跳ね上げさせた。


「げ、笠松先輩…」

「笠松、くん…」

「牧野…?」


黄瀬君はギギギ、と音が出そうなくらいゆっくりと笠松くんを振り返り、笠松は私と黄瀬君を見比べた後バッと黄瀬君を睨み付け「黄瀬!」と怒鳴る。


「ご、誤解ッスよ先輩!俺はなんも…」

「なんもしてねーのになんで牧野が泣いてんだよ!」

「あ、ちが、違うの笠松くん!本当に違うから…!」


誤解をしているらしい笠松くんに慌てて声をあげて黄瀬君に泣かされたわけではないことを告げ黄瀬君を振り返る。


「ごめんね、大丈夫だから部活に戻って?笠松くんも…」

「だから大丈夫じゃ…!」

「黄瀬」


私の台詞に反論しようとした黄瀬君を笠松くんが名前を呼んだだけで黙らせ「戻ってろ」と一言。
黄瀬君は少し躊躇った後私と笠松くんを交互に見てから「ッス」と返事し体育館へと戻っていった。



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