図書館という場所はどうしてもうも落ち着くのか。
そんなことをぼんやりと考えながら本棚を見上げる。

流石私立と言うべきか、ここの蔵書は県内随一で三年間毎日のように通ってもまだ読んでない本が沢山ある。

本を読むのは好きだ。本は沢山のことを教えてくれるから。
活字を読むのも好きだ。ひどく心が落ち着くから。


「(あ、)」


不意に目にとまったのは真っ白な表紙の本。
あれは昔その装丁に惹かれ買った物だ。
親戚の子に悪戯されて読むことが出来なくなってしまい、もう一度買おうと思ったら絶版になっていてそれが叶わなかったという代物で、それから学校の図書館で探したはいいけど見つからず、今の今まで本のタイトルも作者名も忘れてしまっていた。


「(ここにあったんだ…)」


なんだから運命的なものを感じてしまい、頬が緩むのをおさえながら手を伸ばす…が、その本が入った一番高い棚は本がぎっしり詰まっていてなかなか取れない。

隣の本を押さえればいいのだけど生憎片手は違う本で塞がっていてまわりに置けそうな場所もない。…仕方ない、一旦本を置いて来よう…そう考え本棚に背を向けようとしたその時だった。


「…これか?」

「え?」


スイッ、と伸びてきた腕が私の取りたかった本をいとも簡単に取っていく。
そうして聞こえた問いかけにやっと横を見れば白い装丁のそれを手に取り首を傾げている男子生徒。


「あっ、うん…ありがとう、笠松くん」


少し赤い顔と反らしたままの目は女子が苦手だからか。
最近見慣れてきたそれに何か反応をするでもなく小さく笑って本を受け取る。


「ありがとう、助かった」

「…や、別に」


そういえばこうやって高い場所にあるものを取ってもらうのって初めてかもしれない。そう考えたらなんか恥ずかしくて、誤魔化すように前髪をおさえる。


「…具合悪いのか?」

「え?」

「顔、赤い」

「ああ…ううん、違うの」


そんな誤解に手に持っていた本を抱き締めるようにぎゅっと抱え込み視線をさまよわせる。


「私、見ての通り大きいからさ、こうやって物を取ってもらったりするの初めてで…なんかちょっと恥ずかしいね」


それに、こそ身長が嫌であまり男の子と近い距離で話さないようにしてたからちょっと顔を見上げれば目が合っちゃう距離とか、笠松くんの真っ赤な顔とか、いろいろ合わさって顔が赤くなってしまったのだろう。
私みたいなのが顔を赤くしても可愛くないんだからどうにかしないと…なんて思いながらもどうにもならない。


「でも、笠松くんも顔赤い」

「っ、女子とか苦手なんだよ!」


わるいか…と目を反らしながらいう笠松くんに「ううん、」と首を横に振る。


「それにお前は他女子より距離が近いから…」


真っ赤な顔を隠すように大きなその手で口元を押さえる笠松くんにいよいよ本格的に顔に熱が上るのがわかって照れ隠しにあはは、と笑って誤魔化してみるけど多分誤魔化せてないだろう。

なんとなくそのまま一言二言話してからそういえば、と思い出し、ポケットから二枚、紙を取り出す。


「笠松くん肉まんとか食べる?」

「…食べるけど」

「これあげる。友達がくれたんだけど私はあんまり食べないから…」


そう言って渡した紙は肉まんの半額券。一枚で二個まで安くなるというものらしく、友人に貰ったはいいものの部活もしてない私がコンビニでそういった物を買うことは殆どないからどうせならと思ったのだ。


「いいのか?」

「うん。私だと多分使わずに終わっちゃうから…よかったら部活帰りにでもみんなで食べて」


へらっと笑って券を笠松くんに手渡すとちょうど予鈴が鳴ったため慌てて貸し出しの手続きをしてから図書館を後にした。

笠松くんとは次は選択授業で違う教室だから図書館の前で別れる。


「(笠松くん…)」


彼のことは一年の頃から知っていた。
いつも男の子達に囲まれてて、女の子は苦手だけど人望はある。
ああいう人にはきっと小さくて可愛らしい女の子が似合うんだろう。
そう考えたら何故か胸がつきんと痛んだ。

小さくなりたい

そう、切に願ってしまう程に



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