放課後、担任のもとに学級日誌を提出しに行ったらナイスタイミングだとばかりに数学の先生に男子バスケ部へのおつかいを頼まれてしまった。バスケ部への、っていうか小堀君への、だけど。
書類に不備があって明日までに再提出してもらわなきゃいけないけどクラスの子がなにかやらかしてそちらに行かなきゃならなくなってしまったらしい。
そんなことを心底申し訳なさそうな顔で言われてしまったら嫌だとも言えず(言うつもりもなかったけど)素直に頷いて体育館に来たら、
「あれ?」
誰もいない…?
まさか休み?でも笠松君部活だって言って…はなかったけど日誌は私がやるから部活行っていいよって言ったらすごく申し訳なさそうに「わりぃ」って言って教室出て行ったし…あ、ボールとかタオルは出てる。…ランニング、とかかな?
「バスケ部になんか用ッスか?」
「ひっ」
体育館を覗いてきょろきょろと中を覗いていると不意に後ろから声を掛けられ情けない声を出してしまう。
慌てて後ろを振り向けば視界に広がる紺色のTシャツ。え、と顔をあげるときらきらとした金髪が目に飛び込んできて、最後に顔を見てそれが噂のモデル君だと気付く。
なんだっけ、黄瀬…なんとか君。流石にモデルをしているだけあって身長が高い。見上げないと視線が合わないなんて久々だ。
「あ、あの、小堀君…いる?」
無駄にきらきらとしたオーラに気圧されつい逃げ腰になってしまう。
駄目だ、この人は私が近付いてはいけない次元の子だ…
「小堀先輩?」
「黄瀬!何してんだとっとと中に…あ」
「あ、笠松君…ごめん、邪魔だったよね」
見れば笠松君の後ろにも沢山部員さんがいて慌てて入り口の前から退く。
「や…、日直、か?」
「ううん、そっちは終わったよ。日誌出しに言ったら佐藤先生におつかい頼まれて…小堀君いるかな?」
相変わらず目を合わせてくれない笠松君にそう尋ねれば私が持っている茶封筒をちらりと見てから小堀君を呼んでくれた。
なんていうか、男の子と話しているときと女の子と話しているときのギャップが凄いと思う。
「なんだ?」
「…客」
ひょこっと笠松君の後ろから顔を出した小堀君はやっぱり身長が大きくてなんとなくうまく顔を見れなかった。
「これ、佐藤先生から…明日までに提出してって」
「あ、ありがとう」
じゃあ用事は済んだから…と立ち去ろとする私の手をガシッと掴んだのはいつの間にかすぐ近くにまで来ていた森山君。彼は一年の時に同じクラスだったから面識がある。こんな私を口説こうとしてきた勇者だ。
クラスの殆どの女子が同じ目にあってたけど。
「すずりさん」
「な、何?」
「君のお友達を是非紹介…いてっ、なにするんだ笠松!」
「牧野が困ってんだろ!いいからお前はもう一回ロード行ってこい!」
戸惑う私を森山君を蹴り飛ばすことで助けてくれた笠松君にお礼を言って、部活の邪魔をしたことを謝ってから今度こそその場を立ち去る。
自分より大きな人に囲まれるのなんて本当に久しぶりだったから、なんでかちょっと恥ずかしかったな。そんなことを考えながら。
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