神崎先輩が入院した、と聞いたのは数日前。
それまでの間お見舞いに行かなかった理由はと言われたら単純に必要ないと思ったからと、古市君に神崎先輩の入院までの経緯を聞いたからだ。男鹿君の突発的な行動はともかく城山先輩にそんなことをするなんて!
そう思って夏目先輩からのお誘いを断ってたけど今日遂に城山先輩から頭を下げられお見舞いに行くことになってしまった。
城山先輩には弱いんだよ…
そんなこんなで放課後、抜け道で二人と合流し途中でお見舞いの品を買って先輩の病室に来たのだけど
「ハァ!?
ぼりすぎだろ!!
フザけんなよ!!」
「うるせー。
社長の息子がセコイ事言ってんじゃねーよ」
「つーかそもそも、なんでてめーと同じ病室!?」
なんでこんな殺伐としてるのこの病室…!
思わず城山先輩に隠れた私を見て夏目先輩が吹き出したけど知らないもん。
「神崎くーん、遊びに来たよ」「ああ?また来たのか」
「うん。今日は城ちゃんともう一人…隠れてないで出てきなよ」
グイッと手を引かれ城山先輩の後ろから引っ張り出されてしまった。
か、神崎先輩と同室?のリーゼントさん(っていうかこの人姫川先輩…っ)の視線が痛い。
「う、あ、うう…」
思わず再び城山先輩の後ろに隠れようとしても夏目先輩に腕を掴まれていてそれも出来ない。なんだもう四面楚歌かここ。
「なんでテメェが…」
「だ、だって母さんがどっかから聞いてきてうるさいし夏目先輩毎日来るし城山先輩に頭下げられるし、じゃ、邪魔なら帰りますから…って夏目先輩手離して下さいうわああん!」
「まぁ落ち着けや」
「…はい」
パニックから溢れてきた涙をふきながらぐすんと鼻を鳴らす。
取りあえず病室に入らなきゃいけないのかなこれ、なんで手前が姫川先輩なの…
「これ、お見舞いの品です…」
差し出したのはフルーツの盛り合わせとヨーグリッチ。フルーツ、やっぱりもうあるけど…た、食べなかったら持ち帰ればいいんだ。
「…全治、1ヶ月でしたっけ」
「おー」
「殴られて吹っ飛んで三階から落ちてそれってなんなんですか化け物ですか」
「…テメェたまに生意気だよな誰に口利いてんだああ?」
ガシッと頭を掴まれギチギチと締め付けられる。
いたいいたいたいいたい
「い、痛いです、いた…っうわああ神崎先輩なんか男鹿君にぼっこぼこにされちゃえばいいんだいたいいたいたいいたい!」
「男鹿が、なんだって?」
「うわああん」
今のは東海林ちゃんが悪いかなーなんて笑っている夏目先輩が憎い。
「大体なんでテメェが男鹿のヤローを知ってんだ」
「ちゅ、中学からずっと同じクラスだから…それに」
そう、それにだ
「…男鹿君は命の恩人ですから」
「命の恩人?」
「…誰かさんに川に落とされたときにたまたま通りかかって助けてくれた心優しい友人です!」
あの日男鹿君が通りかかってくれなかったら確実に私は死んでいた。確実に。絶対。
男鹿君には一生頭が上がらない。
ふんっと顔を背ければ隣から思い切り吹き出す声が聞こえた。
「あははは!それ言われたら神崎君何にも言えないね!」
爆笑する夏目先輩と苦虫を潰したような顔の神崎先輩、おどおどしている城山先輩、そして何故か私をガン見してる姫川先輩。
「そういえば姫ちゃんも男鹿君にやられたんだっけ」
「ああ゛?」
ドスの利いた声に咄嗟に神崎先輩の影に隠れる。姫川先輩怖い。
「つーかそこの嬢ちゃん」
「うっ、あ、夏目先輩呼ばれてますよ…」
「どう考えても違うだろ」
バッサリと神崎先輩に切り捨てられた。わかってるもんそんなこと…
「この前はどーもなぁ?」
「…こちらこそあの時はずした腕大丈夫でしたか大丈夫みたいですねくそっ」
「ああ?」
「うう…」
なんで墓穴掘るかなぁなんて呆れたように(そして面白そうに)夏目先輩に言われたけどそんなの勝手に言葉を発する私の口に言ってほしい。
「…ああ、この前の姫川だったか…」
「この前?」
「俺が東海林を助けたというときだ」
入学してからびくびくと過ごしていた私に絡んできて咄嗟に投げられた挙げ句うっかり肩の関節を外しちゃった姫川先輩。
怖いけどこの人なんか嫌いなんだよ。
「…お前こんなんに絡むとか趣味悪すぎだろ」
「うるせえ大体見舞いに来るってお前のオンナなんじゃねえのか?趣味悪いのはテメェの…」
「そ、そういうのは本人のいないとこで言って下さい!」
なんで私がdisられなきゃいけないの、しかも目の前で!
「うう…二人とも禿げちゃえばいいんだ」
「「ああ゛?」」
「元気そうなので帰りますさようなら!」
鞄を掴み病室を飛び出す。
もう絶対来るもんか
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