ぐすぐすと鼻をすすりながら制服の袖で涙を拭う。
「…そんなこんなで石矢魔通うことになったけど授業は授業にならないし喧嘩も怖いし自分で言うのもあれですけど元々石矢魔女子…頑張れば聖石矢魔高校受けれるだけの学力もあったから先生が特別処置でここを使うように配慮してくれたんです」
そりゃ綺麗な部屋だしなんかもうここで生活出来るんじゃないかってくらい色々揃ってるけどだからって遊んでるわけじゃなくちゃんと勉強してるし…まぁ、確かに甘やかされてる自覚はあるけど
お弁当を食べながら頭の中で色々と言い訳をしていたら不意に部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「誰だろ…?」
先生達はノックしたあとに必ず声を掛けるから多分違う。
でもこの部屋に来るのなんか先生以外いない。
「あ、多分城ちゃんだ。城ちゃーん、入ってきていいよー」
城ちゃん?と首を傾げる私をよそに勝手に来客を招き入れる夏目先輩。
…ここ、先輩の部屋じゃないのに。
取りあえず来客が恐い人だった場合を考え神崎先輩の後ろに隠れる。睨まれたけど知らない。夏目先輩に笑われたけど知らないもん。
「…失礼します」
そんな私の心配を余所にしっかり挨拶をして部屋に入ってきたのは見覚えのある人。
2メートルを超える長身に特徴的な髪型。
彼は神崎先輩に頭を下げ、それからその後ろから顔を覗かす私を見て目を見開いた
「お前は、この前の…」
「何、城ちゃんも東海林ちゃんのこと知ってるの?」
「あぁ、前に一度絡まれているのを助けたことが」
「…あの時は本当にありがとうございました…」
私が早朝に登校しなくてはならなくなった原因であるあの事件の時
逆上し私に殴りかかった相手を止めてくれたのが城山先輩だった。
「いや、あれから絡まれてないか」
「朝、早くに登校してるし…登下校共抜け道からここに来てるので平気です」
「抜け道?」
私の言葉にキョトンと首を傾げるのは夏目先輩だ。
…言っていいかな。大丈夫?神崎先輩のお友達?だから平気かな?
「こっち、です」
立ち上がって校舎側に繋がるのとは違う方の入り口のドアを開け、置いてあった靴を履いて外にでる。ここは所謂校舎裏…なのだけどフェンスとの隙間が狭いからわざわざこんなところに来る人はいない。故に安全地帯だ。
「ここに、穴があるから…」
フェンスの向こうは人通りがあまりない道路。私が使う抜け道とはフェンスに開いた穴だ。
私が通り抜けるのにちょうどいい高さにあるそれはサイズからして男の人はまず通れない、私だけの抜け道。
「あはははは!確かにこれは東海林ちゃんしか通れないね!」
「お前…こんなとこ通れるのかよ…」
「余裕です。…うう、みんなが大きいだけなのに」
夏目先輩は爆笑してるし神崎先輩は若干引いてるし城山先輩はなんか納得したように頷いてそれから「これなら安心だな」なんて呟いてるしでいたたまれなくなってつい拗ねてしまう。
そりゃ、こんなとこ余裕で通れちゃうけど…だからって別に私が小さいとかじゃ…み、みんなが大きいだけだもん。
「で、」
「で?」
部屋に戻ってお茶を啜って一息ついていると(どうでもいいけどこの人たちいつまで居座るんだろう)唐突に夏目先輩が話を切り出した。
「二人の関係は?」
ギクリとしたのは私と神崎先輩だ。
関係…祖父が決めた許嫁ですって?言えるわけないよ…!
「あー…同業者だ同業者」
「同業者?ってことは東海林ちゃんの家って…」
「あ、家っていうか祖父が!祖父がそっちの道の人なだけで家は極々一般家庭です…」
お父さんサラリーマンだしお母さんは保育士だし
「それでこの間食事会?みたいなのでご一緒して…」
「へぇ…でも孫娘とは言えヤクザの血筋なら武術位出来そうなのにね」
「?出来ますよ?」
え?
は?
え?
三人三様の反応にびくっとしてしまう。ええ…変なこと言っちゃったっけ…?
「さっき城ちゃんに助けてもらったって…」
「あ…喧嘩は恐くて出来ないんです。でも武術は…関節外したり骨折るくらいなら…」
「うん。かなりだね?」
あ、あれ、そうなのかな?
確かに昔から護身術って言って色々やらされてたり組員の喧嘩止めたりしてたから弱くない、とは思うけど…
「つーか不良が恐くてヤクザが恐くねぇつーのが変だろ」
「だ、だってうちの組員はみんな優しいし、他の組の人も私の名前聞いたら逃げたり…う、うちの学校の人達は話聞いてくれないしセクハラしてくるし殴ろうとするし…」
理性がないように感じるところが怖いのだ。
大体からしてうちの組員は堅気にむやみやたらに絡んだりしないもん。
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