旅館の中にある談話室みたいなところで背もたれに片腕を掛け座りヨーグルッチを飲む神崎先輩の横でココアを飲む。

なんだこの状況。

神崎先輩は単純にお酒の臭い充満したしたあの部屋の中で大人しく座ってるのがだるかったらしく(あとヨーグルッチがきれたといっていた)(ヨーグルッチにはニコチンみたいな中毒作用があるのか…?)特になんか怖いことをされたり言われたりしていないので私も大人しくココアを飲んでいる。

目の前には大きなガラス窓があって、そこに映る私と神崎先輩の姿を見ながらよくわからない二人組だな、と他人ごとのように思う。

というかこの着物とか簪とか誰のなんだろ…まさか新品…?だとしたら欲しいって言ったらくれるかな。
着物はともかく簪は欲しい。檸檬色の簪ってちょっと珍しい。


横髪を弄りながらどうやってねだろうか考えていたら神崎先輩が飲み干したヨーグルッチのパックをぐしゃっと潰し鏡越しに目があった。びっくりしてそのまま目を合わせていると反射的になのかなんなのか思い切りガン付けられ思わず怯んでしまう。

神崎先輩はそれに「チッ」と舌打ちした後「あー…」と気の抜けた声を上げぐたっと背もたれにもたれ掛かった。


「…婚約っつーのは本当か?」

「……らしいですよ」


はぁぁぁぁ、と二人揃ってため息を吐く。
乗り気じゃないのはお互い様だ。


「だりぃ」

「だりぃです」


なんというか会うだけとは言ったがこちらには拒否権がないのだ。
借りを返さなきゃいけないのは本当だし
約束は守らなきゃいけないし

だけど同じように神崎先輩も拒否権はない。
神崎組は現在少々厄介な事になっているらしくうちの組の援助が必要。

最悪それが終われば婚約解消してしまってもいいんだけどそれは互いの家にとって損はあれど益はない。


「全部おじいちゃんが悪いんだ…」


借りを踏み倒そうとするからバチが当たったんだよ…ただなんでそのバチが私に来るのか神様を問いただしたい。


「つーかなんでテメェなんだよ。他にもいるだろ。堅気じゃねぇやつ」

「…うちの家系基本的に男しか産まれない男系家系なんで女は私しかいないんです。…3歳の幼女ならいますが」


流石にそれは…色々やばいだろうと思うし。


「だりぃ」

「だりぃです」


会話が振り出しに戻ってしまった。

こんなに当人達が乗り気じゃない婚約も珍しい。


「…ごめんなさい」

「んでテメェが謝んだ」

「言い出したの、うちの祖父だから」


本当、迷惑掛けちゃってごめんなさいとしか言えない。


「…俺は乗り気じゃねぇがこの婚約はうちの組に取って利益がデカい。むしろ損はねぇだろうな」


だから気にするな、と言うような口調に目を丸くする。

この人も、フォローとか出来るんだ。


「お嬢、そろそろ」


外で見張りをしていた組員が呼びに来る。
それに頷き立ち上がる。


「多分、祖父は使い物にならないので今日はこれで帰ると思います」

「チッ…じじいもだろうな」

「また学校で」

「…おー」




神崎先輩が意外に怖くないってわかっただけ今日の収穫は大きかったと思う。

また、なんて自分の口から出るなんて。




「どうでしたか?神崎の倅は」


帰りの車の中、唐突に竜崎さんが尋ねる。


「思っていたよりは、怖くなかったです」

「では、婚約は…」

「それとは別です。けど…約束は守らなくちゃ、ですよね」



…申し訳ございません、と謝る竜崎さんに首を振って前を向く。


「神崎先輩と結婚したら姐さんとか呼ばれるようになるのかなぁ…」


私がそう呟くと、竜崎さんは一瞬目を見開き、「私達の中ではお嬢はずっとお嬢です」と笑った。




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