目の前には沢山の料理と沢山のお酒。

見ただけで高級だとわかる料理に緊張を忘れ目を奪われれば祖父に鼻で笑われ部屋の隅で待機していた竜崎さんには帯を緩めるかと要らぬ配慮をされ
それに照れ隠しで拗ねた顔をすれば正和さんに笑われ

なんだこれまわりは敵だらけか。

既にお酒を呑み始めているじじ二人にいただきます、と手を合わせて箸を手に取る。

すき焼きにお刺身、天ぷら、冷や奴、和え物、お味噌汁…沢山の料理にどれから食べようか迷ってしまう。

悩んだ結果海老の天ぷらが手をつければ…や、やばい。美味しい。


じじ二人はなんかまた二人で騒いでるし神崎先輩は眉間にしわ寄せて黙々と食事をしているし、話す相手もいないのでマイペースに美味しい食事を堪能する。

炊き込み御飯が凄く美味しい。

机の脇にはお櫃が置いてありおかわりが出来るようになっているから後で余裕があったらおかわりしよう。


「けっ、これだから耄碌じじいは」

「あ?調子のんやな糞ガキが。耄碌かどうか試してみるか?」

「上等じゃじじい」

「表出ろや糞ガ、」

「出るな馬鹿」


ぐいっ、と半分立ち上がり掛けてた祖父の後ろ髪を引っ張り痛みに悶えてる祖父を尻目に味噌汁をすする。


「食事中は?」

「喧嘩、厳禁…」

「おじいちゃん達なりのスキンシップなのかもしれないけど御飯食べ終わってからにしてよ。せっかく美味しいお料理なのに冷めちゃ勿体無いし作ってくれた人に申し訳ないでしょ」


前半は我が家の掟
後半はただの私の持論だ。

昔…それこそ私の父がまだ小学生の頃、おかずの取り合いから喧嘩になった父と叔父と祖父。いつものことと周りは無視して食事を続けていたのだがその日はいつもよりヒートアップしてしまい何かの拍子に机がひっくり返り料理が全て駄目になりそれに怒った祖母が「食事中は喧嘩厳禁」という決まりを作ったと聞く。

それ以来食事中に喧嘩しようものならすかさず祖母の説教が始まるため血気盛んな男衆の集まる我が家も食事中だけは絶対にみんな喧嘩をしたりしない。

因みにこれはうちの組員だけでなく系列の組にまで徹底されているらしい。


それと何よりやっぱり食事は温かい美味しい状態で食べるのが一番。それが食事を作ってくれた人に対する最低限の礼儀というやつだ。



それからまぁ口喧嘩というか軽口の叩き合いはあったものの基本的に祖父がカッとならなければ乱闘にはならないのか比較的穏やかに食事は進み年寄り二人は既に呑み比べを始めている。


「(この炊き込みどうやって味付けしてるのかな…美味しい。もう一杯食べよ)」


そう思い立ち上がろうとしてふと思い立ち一瞬悩んでから「あの、」と神崎先輩に声を掛ける。

あ?と睨まれて思わずビクついてしまうがそれでも恐怖を必死に押さえ込み再び神崎先輩に視線を合わせる。


「ご飯、おかわりいりませんか?」


いくら量が多めとはいえ成長期の男性には物足りないだろうと思ったのだが、どうだろう。


「…大盛」


そういって渡された茶碗を受け取り立ち上がる。

なんかあれだ。この人目つき悪いしガラも悪いけどそんなに怖くないのかもしれない。

言われた通り大盛によそった茶碗と自分用の茶碗を持って席に戻れば何故かびしょ濡れになっている私の座布団。

ひくりと頬をひきつらせ見れば机の上にあった湯飲みがひっくり返っていた。

恐らく…というか絶対祖父の仕業だが完全に酔っぱらっている祖父を叱っても疲れるだけだとわかっているのではぁぁぁ、と大きなため息を吐き部屋の隅にあった座布団を持ってきて少し悩んだ物の面倒だったため机の隅、俗に言うお誕生日席に座り込む。

神崎先輩との距離がやや近くなってしまったが正面にいるよりは楽だからまぁいい。


「おい」

「は、はい」


そんなことを考えてたら不意に声を掛けられ思わず声が裏がえる。


「それ食わねぇのかよ」

「え?あ、」


それ、と言うのは先ほどが一口も手を着けていない刺身の盛り合わせ。


「お刺身、苦手で」

「はぁ?…なら食っていいな」

「あ、どうぞ」


信じらんねーとかなんとか聞こえたが苦手なものは苦手なんだからしょうがない。

だけど食べてくれるのはありがたいので黙っておく。


そうして食事も無事に終わりさてどうしようか、と部屋を見渡す。

竜崎さんは警備だとか言って食事が始まってすぐに部屋の外へ行っちゃったしおじいちゃんと正和さんは相変わらずお酒呑んでる。

食事が終わると手持ち無沙汰になっちゃって困る。

チラリと神崎先輩を見ればパチリと目が合ってしまった。

げ、と思うも直ぐに反らすのもなんか気まずくてどうしよう、とあわあわした後になんとなくへらっと笑い視線を反らす。

何故笑った自分何故笑った私…!
自己嫌悪に陥る私に神崎先輩は一瞬怪訝そうな顔をしてから口を開いた。


「クラスはどこだ」

「クラス…3組です。1年3組」


あ、でも、と言葉を続ける。


「教室には、ほとんどいません」


教室にいても授業にはならない。
私は特に事情が事情(元々石矢魔女子に行ける学力だとか女子だけど列怒帝瑠に所属してないとか勉強する気がちゃんとあるとか)なので先生が気を使って教室に来なくていいようにしてくれた。


「あ?じゃぁどこにいんだよ。テメェみたいなのが校内歩きまわったら恰好の餌食だろ」

「そうなんですけど…いつもは保健室の奥の小さな部屋とか図書館にいます」


保健室の小部屋は元々宿直の先生達が寝泊まりしていた部屋で鍵さえあれば外から入れる。
図書館は生徒が生徒だけに近付く人間はあまりいないから避難するには最適。因みにこちらも外から出入り出来る。

先生達はどちらかに行けば私に会うことが出来るためそこで授業をしてくれたり課題のプリントを届けてくれたりもする。


「図書館?どこにあんだそんなもん」

「一階の自販機の先です」


えぇ…という顔をすれば知るかんなもん、と睨まれた。

…まぁ、確かに用がなければ知らないかな…?


「あー…だりぃ。おい、抜け出すぞ」

「…はい」


うわぁぁぁぁ怖いいいい
いやでも行かなきゃ行かないで怖いし大丈夫神崎先輩そんなに怖くないから!多分!多分誰かひっそり突いてくるし!

うん。大丈夫。

既に酔いつぶれているおじいちゃん達を横目に部屋を出れば竜崎さんやいつの間に来たのか見覚えのある数人組員に頭を下げられた。



*← →#
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -