はじめ先輩と気持ちを確認し合ったところで特に何かが変わったわけでもなく、いつも通り悪態ついたり泣かされたり。
そんな関係がなんだかんだ好きなのだ。
そんなある日
「…ゲーム対決?」
あくまの学園?えんおう?みどりのガキ?なんだそれ
電話口で夏目先輩に説明されたそれにひたすら首を傾げる。
「とりあえずみんなでゲームしてるってことですか?」
『まあそんな感じかな』
「はあ…よくわからないけど頑張って下さい」
『うん。それでお願いがあるんだけど…』
次に続けられた言葉に私は電話に出たことを激しく後悔した。
▽
「なんでなんにも入ってないんですかこの冷蔵庫!」
夏目先輩にお願いされよくわからないままに指定されたマンションへ行けば中には夏目先輩やはじめ先輩、城山先輩だけでなく古市君や由加ちゃん達、極めつけには姫川先輩までいて思わず逃げ出そうとした私は悪くない。
一瞬で捕獲され「東海林ちゃんは食事係ね」と語尾にハートを付けながらのそれに半泣きになりながら「姫川先輩のご飯は作りたくないです!」と言って姫川先輩に怒られたり、城山先輩に何が食べたいか聞いたら何故かはじめ先輩が答えた挙げ句その答えが「刺身」だったため「ハゲちゃえ」っていつもの悪態をついてやっぱり怒られたりしながら冷蔵庫を開ければろくな物が入ってないとか本当なんなんだ。
姫川先輩本当使えない…なんて呟いたところで姫川先輩が本気でキレだしたため慌ててはじめ先輩の腕をつかんで「スーパー行ってきます!」とマンションを出てすぐ近くのスーパーに来たのはいいけど、なんていうか…
「はじめ先輩スーパー似合わなすぎです…」
「あ゛?」
「凄まないで下さい子供が泣いちゃう…」
はじめ先輩の手を引きながらカートを押して野菜やなんかを適当にカゴに入れていく。あれだけの人数だ、カレーでいいだろう。
っていうか城山先輩だって料理出来るのになんで私が…城山先輩はゲームしなきゃいけないから?でもさっき見た限りちーちゃんしかしてなかったし…
そんなことを悶々と考えながら一通りの物をカゴに入れてからふと気付く。
「あのマンション、お米ってあるんですか?」
「…知らねーけど」
「ちょっと姫川先輩か夏目先輩に電話して聞いて下さい。私ヨーグルッチ持ってきますから…」
ヨーグルッチにつられたのかなんなのか、文句を言いながらも携帯を取り出すはじめ先輩に「(単純だ…)」なんて内心笑って紙パックのドリンクが並ぶ売り場でヨーグルッチをいくつかカゴに入れる。
特別何かが変わったわけじゃない。
だけど少しだけ、変化はあったかもしれない。
例えば、はじめ先輩はほんの少し優しくなったし、私のお願いもちょっとは聞いてくれるようになった。これはマイナススタートだったからまあ、はじめ先輩を優しいと思うことはあまりないけど。
それからたまにだけどお互いに触れるようになった。
前ははじめ先輩が私の頭を思い切りつかんだり頬をひっぱったり頭を叩いたり…そういうバイオレンスな感じだったけど、手を繋ぐまではいかなくても手首を掴まれて歩いたりはじめ先輩に寄りかかったり、気まぐれに頭を撫でられたときは熱でもあるのかと心配して思い切り髪を引っ張られて泣きそうになった。
そんな感じの変化を感じる度になんとなく気恥ずかしくなったり、心がほかほかしたり。恋ってものは厄介だと思う。
電話の結果お米は買わなきゃならなかったらしくどうせ姫川先輩のお金だからと一番高いお米を買ったはじめ先輩に呆れながらその腕を軽くつかむ。
「…なんだ」
「ちょっと甘えたくなりました」
目を反らしながらはじめ先輩の腕に自分の腕を絡ませてぎゅっと抱き付く。ああ、はじめ先輩のにおいだ。
「…行きますか」
「…おー」
ゆっくり、ゆっくり、一歩ずつ
私達のペースで進めばいい。
どうせ一番近い未来には結婚、そっから先もまだまだ長い。
少しずつでいいんだ。
少しずつ、一歩一歩確実に。
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