帰りたいな。
要君に言われるがままソファーに座り紅茶を飲みながら思う。
…大体、なんで連行されたんだろ。なんかしたっけ…したけど、その件について?だったら面倒だな。


「お嬢」

「なに?」

「この間の件ですけど」

「どの件?」


城山先輩が怪我したこと?
そのあとのはじめ先輩の殴り込み?
屋上での一件?
それとも、


「そちらの生徒さんに怪我をさせたうちの生徒が二週間の停学処分になった」


三木君の言葉に「へぇ」と興味なさげに相槌をうつ。
古市君に聞いてたから知ってるし、さして興味もない。


「処分は停学だけだったんだけど自主退学したよ」

「へぇ」


また、同じ相槌。なんだろ、遠まわしな話方が面倒くさい。


「彼らは先日の一件の後二時間ほど失踪し、その後自主退学を申し出た」

「だから?」

「…石矢魔の生徒が何かしたのかなって思っただけさ」


成る程…ああ、本当にこの人嫌い。それは私が本当のことを知ってるからだけじゃなく根本的に嫌いなんだろう。


「石矢魔の生徒は何もしてないよ」

「まぁ、無傷やったんでそうだとは思います」

「帰っていい?」

「もうちょい我慢してください」


言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。面倒だな。


「単刀直入にいうわ。何をしたの?」


なんだっけ、この人
なんとか御前とか言われてたけど忘れちゃった。


「―私はただお願いしただけです」

「お願い?」

「もう二度と馬鹿なことをしないように説得するようにって」


病院で、竜崎さんに電話してお願いしたのは件の三人の処分。


「怪我はしてないはずだしちゃんとお願いして車に乗っていただいたはずです。危ないこともしてないし、退学もすすめてません。ただ、ちょっとお話しただけだと思います」


怪我はさせないように、危ないことをしないように何回も念押ししてたから。


「それだけ?人の人生を」

「狂わせておいて?
はっ、殺人未遂おこしといて何馬鹿なこと言ってるんですか。
あと数ミリずれてたら城山先輩は死んでました。それで警察にも届けず強制退学にもならずただちょっと怖い顔の人とお話しただけで済んだんじゃないですか。
多勢に無勢で無抵抗の人間にあんな馬鹿なことやらかす奴に大した人生が待ちかまえてるとは思えないから今の内に狂ってよかったんじゃないですか?」


大体自主退学なんだから狂わしても何もないだろう。勝手に辞めただけじゃん。


「自分の手は下さなかったのね」

「…別に、私がなんかしてもよかったけど…」


城山先輩が無抵抗貫いた理由とか、そんなんなしにしてもそれはちょっと避けたかった。だって


「ちょっと手加減出来る自信なかったから」

「お嬢…」

「私は自分を傷つける人が嫌いです。だけど大切な人を傷つける人はもっと嫌い。自分と大切な人達が平和なら別に他はどうでもいい。だから大切な人を傷つける人には容赦できない」


なんて自分勝手でわがままな人間なんだろうと我ながら思う。


「この間要君に嫌いって言ったのは本心じゃないけど私の大切な人達を傷つけるこの学校は嫌い。もしもう一回おんなじようなことがあったら潰しちゃうかもしれない」

「…そう簡単に学校は潰れないデスよ」

「別に本格的に壊さなくてもいいんです。石矢魔みたいに一旦物理的に壊して修理のお金がまわらないようにすれば少なくとも石矢魔の校舎が建たまでは保つしそういうお金の流れだったらうちの得意分野だし」


まあ、やらないけど
だけどそれくらいには腹がたってるから。


「―ほんまに強くならはりましたね」

「…変わってないよ。昔からへたれで弱虫なまま。変わったっていうなら、多分近い将来"お嬢"じゃなく"姐さん"になるからじゃない」

「…その婚約ほんまなんですか」

「もう正式に婚約者だよ」


帰っていいよね?とソファーから立ち上がり踵を返す。


「なんでそこまであの連中を?」

「別に、ただ単純に大好きだからだけど」

「お嬢が苦手な不良なんに?」

「…だってみんな優しいから」


姫川先輩はともかく、みんな私には怖いことしないし、優しい。それは私が不良じゃないからなんだけど、それでも

「それにね、私がお嬢だって知って態度変わらなかったの、初めてなんだ」



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