父親はサラリーマン母親は保育士、家は十数年前にローンで建てた一軒家。
不細工ではないと思うが可愛いと言われたこともあまりない普通の顔に平均よりちょっとだけ低い身長。胸は人よりいくらか大きいがその他が幾らか残念な為ナイスバディには程遠く勉強と運動は中の上レベル。

護身術として合気道とか剣道とか…他にもなんか色々やっていたがチキンなため喧嘩になるとその力が発揮出来ず、という宝の持ち腐れ状態。

我ながらなんというか本当に平凡な人間なのに。


「…許嫁…?」


これは、どういうことだろうか。






目の前にはベッドに上半身を起こし気まずそうにしている祖父。ベッドの横には土下座姿の祖父の側近さん。

…なんか色々誤解されそうな光景だ。


「申し訳ございません!私が、私があの時長を止めていれば…!」


彼の名前は竜崎さん。
平凡な私の平凡でない祖父の側近で小さい頃から私を可愛がってくれた二人の子持ちのおじさんだ。


「…頭を、上げてください。
おじいちゃん。説明」


明らかに事の元凶である祖父を見やればじぃは「えーっとな、その…」なんとはっきりしない言葉を繰り返している。


「せ、つ、め、い」

「う、うむ」


祖父の説明はこうだ。
祖父は日本最大のヤのつく職業の組長で竜崎さんはそこの幹部。許嫁というのはここら辺一帯を仕切る同業者(つまりヤクザ)の次男坊で彼の祖父―先代の組長と祖父は幼い頃からの腐れ縁。


話は私が生まれる前に遡り、当時身内の裏切りで敵対しているヤクザに大打撃を食らわされた祖父の組―東海林組をその友人という組長が助けてくれたらしい。
そして数年後。すっかり組を持ち直した祖父は友人にいつかお前の組が危なくなったときは俺がお前を助ける、と約束したらしい。


「かっこいい話だね。それで?」

「で、やな…」


とは言ってもこちらは一応日本最強。大々的に援助するには色々面倒事が生じる。そしてかっこつけてそんな約束をしたもののぶっちゃけ助けるとか面倒だ。さてどうしたものかと祖父は頭を傾げた。
そして、


「いやいやいや、面倒って何面倒って…!最低。失望したよ」

「な…!そ、そうは言ってもやな、あいつのことぶっちゃけそんな好きやないし…」


うわー…、とドン引きする私に祖父の体がどんどん小さくなっていく。



そして、考えた末に祖父は自分の孫が女だった場合お前の息子もしくは孫に嫁がせる。そしてそれを支援ということとする、と約束したらしい。
仮にも日本最強の組。そしてその孫娘が嫁いだとなれば牽制になるだろう、と。


「ふーん…」

「う、うちは男系家系で女が生まれることなん殆どなかったさかい…」

「へぇ…」


実際祖父の子供…つまり父の兄弟は全員男で、その子供達…私の従兄弟も私以外全員男。

しかし、一人だけ。たった一人だけ女がいた。

それが私だ。

約束の数年後、次男坊である父と母の間に産まれた子供が女だと知ったとき祖父は愕然とし、いつも冷静な竜崎さんはパニックを起こしそりゃもう大変だったと笑う祖父に殺意が湧き、そして竜崎さんに土下座したくなった。


そういえば私が生まれたとき竜崎さんは涙を流し喜んで母と私に深く頭を下げたと母は言っていた。

勿論「そんなまさかぁ」と笑い飛ばしたらもしかしたら…いや、確実に嘘ではなさそうだ。
ただし涙を流したのは私の行く末を知っていたための物で頭を下げたのは申し訳なさで、だろうけど。


「竜崎さんは頭を下げる必要はありません。悪いのは全部この人ですから」


ちらり、と見れやばビクッと体を震わすじぃ。
この人は本当に日本最強のヤクザの組長なのだろうか。


「…おじいちゃんなんてだいっきらい」


許嫁なんて冗談じゃない。私は普通にサラリーマンかなんかと結婚し慎ましやかながらも幸せな家庭を作るという小さな夢があるんだ。

勿論相手は自分が愛した人がいいし自分を愛してくれる人がいい。

それがなんだ。祖父同士が勝手に決めた相手?しかも相手はヤクザ?
そんなのあんまりにも悲しすぎる。



「頼む!この通りや…!」


だけども、目の前には先程の竜崎さんよろしく綺麗な土下座をしている祖父。

例え入院の理由がただの盲腸とは言えど腐っても病人、しかも老人に頭を下げられているというこの状態は色々やばい。


「ちょ、頭上げて!」

「頼む!」

「う…」


わざとらしい関西弁が抜け真剣に頭を下げているおじいちゃんにずるい、と思う。

なんだかんだ言って立派なおじいちゃん子な自分がこんなことされたら何も言えなくなってしまうってわかってやっているんだから。


「……あ、会うだけ、なら…」

「………!」

「会うだけだからねっ?
会って嫌だって思ったら断るから!」


そうして結局折れちゃうんだ、私は。悔しいけど、しょうがない。



「で、相手は何て名前なの?」

「なんだったか…神崎…神崎…」

「神崎一、です」

「おお!それやそれ!」


か、かん、神崎、


「神崎一!?」


目の前が真っ暗になるのがわかる。

神崎一と言えば石矢魔高校の三年で石矢魔統一に一番近い男であり東邦神姫の一人。
確かに彼はヤクザの息子だと聞いたことがある。

だがしかし、いやいやいや…


「嘘でしょ…?」





現在石矢魔高校に通う私は中学生時代それなりにそれなりの成績を残しそれなりの学校を受験することが決まっていた。

聖石矢魔高校みたいな進学校ではないが石矢魔高校みたいな名前を書ければ受かるような学校でもない、学力も校風も私にちょうどいい、そんな学校を。

だけど事件は受験前日に起こった。


学校帰り、川沿いの道を歩いていた私は不良達の喧嘩に巻き込まれ真冬の川に転落。
肺炎にかかり一週間生死の境をさまよっている間に第一志望どころか通学圏内全ての高校の入試が終わり結果として二次募集で石矢魔を受けるほか選択肢がなかったのだ。

そんなこんなで石矢魔高校に通わなくてはいけなくなったものの不良120%と言われる石矢魔高校。
まともな生徒など皆無で数少ない女子は全員列怒帝瑠に入っている。

友人など勿論いないし中学生時代の友達も私が石矢魔高校に進学したとわかってから連絡が途絶えた。


結果友達が全くいなくなってしまった私はGWに地元にいるのが嫌で祖父の家がある大阪まで遊びに来たんだけど―――まぁ今はそれはおいておこう。


「許嫁が神崎先輩…?よりによってなんであの人…?」



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