顔合わせと食事を終え(みんなお刺身だったけど私は一人鮭のムニエルを食べた)(美味しかったけどなんか…うん)途中から来たはじめ先輩のお祖父さんとお父さん(武玄さん)を加えた大人組は酒盛りを始め(じいちゃんはともかくお父さんは明日仕事なのに)、私とはじめ先輩はお酒の匂いが充満した部屋を抜け出し二人並んで縁側にいた。
(酔っ払いは絡んでくるからいやだ)
ちなみにはじめ先輩という呼び方は母さんに許嫁なんだからと強要されてこう呼ぶことに。許嫁なのに名字で呼ぶなんて!と言われたら…というか来月のお小遣いをちらつかせられたら言うことを聞かないわけにいかない。
はじめ先輩も私を都と呼ぶことになったし…これは母さんの言葉にはじめ先輩のお祖父さんとお父さんがのっかった結果だ。
「疲れた…」
「おー」
明日学校なのになぁ。それにはじめ先輩は病み上がりなのに。
「いよいよですね」
―これで両家への挨拶、顔合わせがこれで終了し、後は組員と他の組への公表をするだけとなった。表立って発表すれば今神崎組を煩わしているとある勢力も手を出せなくなるだろう。そのためにもきっと明日あたりにはよそに向けた情報を流し出すはず。
いよいよ正式な婚約者となるわけだ。
因みにこの婚約は私が神崎組に愛想を尽かしたら解消していいという書面をはじめ先輩のお祖父さんからもらった。
「つーかテメェは嫌じゃねえのかよ」
「嫌では、ないです。
婚約者って言われても実感ないけど、好きな人もいない、し…。は、はじめ先輩の方こそ嫌じゃ…」
「嫌じゃねぇよ」
「なら、まあ、今はいいんじゃないですかね」
不思議なくらい婚約を嫌だと思う気持ちはない。
私に好きな人がいないからかもしれないけど、はじめ先輩がいい人だからってのも大きいと思う。
「お前…本当に変なやつだな」
「し、失礼ですよ」
私は普通だもん。
「これからしばらくはじめ先輩と同じクラスなんですよね」
「おかしーだろ三学年混合って」
「先輩達が超が付くくらいの問題児だからじゃないですか…」
ってことは学校で勉強、出来ないのかな。
本当は図書館とか行きたいけども石矢魔ってだけで嫌われてるみたいだから無理かな。
「…石矢魔に通うのあんなに嫌だったのに、今じゃみんなが嫌われてるのを悔しいって思うの、わがままですかね」
男鹿君とか、古市君とか
神崎先輩、夏目先輩、城山先輩
邦枝先輩、千秋ちゃん、由加ちゃん
みんな話してみると凄くいい人で、だからそれを知らないのに避けられると、悔しい。
私もついこの間までそっち側だったくせに。
「さぁな」
神崎先輩はそれだけ呟いて両手を後ろについたまま、空を見上げた。
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