夏目先輩の影から覗いた病室の中には姫川先輩、神崎先輩、城山先輩、それから知らない二人がぎゅうぎゅう詰めになりながら寝ていた。
その光景を見た瞬間Uターンした私を止めた夏目先輩は鬼だと思う。
「え、学校壊したの男鹿君なんですか?」
するするとりんごの皮を向いていた手を止め夏目先輩を仰ぐ。
因みに椅子に座った今もなお夏目先輩のかげに隠れたままだ。
「うん。そうみたいだね」
「えええええ…んー、でも男鹿君ならあり得る…かな?男鹿君だしなぁ…」
なんとなく男鹿君ならやっちゃってもおかしくない気がする。色々滅茶苦茶だし、あの人。
「男鹿君も古市君も何にも言ってなかったのに…」
朝見たメールにはそんなこと一言も書いてなかった。
古市君辺りなら「男鹿が壊した!」って書いてあっても…
「あ、書いてあった」
携帯を取り出してメールを見てみれば古市君のメールの最後(で、なんだけど…学校が倒壊しました、という文のあと)に凄くスクロールして、「っていうか男鹿が壊した」とひっそり書いてあった。
「古市君、って男鹿ちゃんの友達だよね」
「あ?お前男鹿だけじゃなくてあのヒョロイのとも仲良いのか」
「え、まあ…自然と」
あの川に落とされた日私を見つけてくれたのは古市君だったらしいですし、彼が見つけてくれなかったら死んでましたから、と返せば神崎先輩はあからさまに視線を逸らし夏目先輩はぷっと吹き出した。
皮をむき終えたりんごを食べやすい大きさに切ってお皿に乗せる。
それを持って立ち上がりみんなの視線を避けつつ城山先輩のもとへ。
「城山先輩、どうぞ」
「あ、あぁ…いや、俺の前に」
「おいテメェ城山より俺のが先だろコラ!」
「し、城山先輩にむいたんです!っていうかなんで城山先輩だけソファーなんですか神崎先輩か姫川先輩がソファーに寝ればいいのに!」
「「あ゛ぁ?」」
う、うう…
「東海林ちゃん相変わらず城ちゃん贔屓だねー」
「だ、だって、城山先輩は恩人で、神崎先輩も恩人ではあるけど私が石矢魔に通うことになった元凶で、姫川先輩は恩人っていうかむしろ嫌な記憶しかなくて、だ、だから城山先輩を一番優先するのは当たり前で、」
「あはははは!確かにねー」
「じゃあこいつらはどうなんだよ」
今まで黙っていた(いや、さっき凄んできたけど)姫川先輩がそう言って指さしたのは神崎先輩達と同じくベッドに横たわっている見知らぬ二人組。
「ひ、姫川先輩以上神崎先輩未満…?」
「あ゛ぁ?」
「だって、怖くないし、何もされてないし、睨んでこないし、こ、怖いこと言わないし、でも名前知らない、し、うう…」
城山先輩の眠るソファーの後ろに隠れ体を小さくする。ひ、姫川先輩嫌いだ…
「怖くない、ねぇ…」
「変わった嬢ちゃんだ」
「へ?」
おかしそうに笑う二人(後から聞いたのだけど二人は相沢先輩と陣野先輩というらしい)にきょとんとする。
「二人は怖くないんだ?」
「だって…怖いこと、されてない…」
「んー、確かにね」
見た目がどうだろうが噂がどうだろうが怖いことをされなければ怖くない。だから男鹿君のことは全く怖くないし城山先輩に対してもそうだ。
「怖い顔は見慣れてるし…」
その言葉に神崎先輩、夏目先輩、城山先輩の三人はああ、と納得した。
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