「神崎君から電話があってね、なんか東海林ちゃんが泣きながら電話してきたから見てこいって」
「神崎先輩が?」
混乱している私にわかりやすく説明してくれた夏目先輩。
だけどその内容はいささか信じられないものだった。
「神崎君ね、」
何やら楽しげな表情の夏目先輩が口を開いた瞬間聞こえた「都ちゃん!」という声と友人の姿。
「古市君!」
「だいじょ…って、あんた達は…!」
「あ、ちが…二人は恐い人達追い払ってくれただけで、だから大丈夫…!」
何やら誤解をしている様子の古市君に慌てて事の次第を説明すると、古市君は驚きながらも納得してくれた。そういえば面識あるんだった…
「ね、男鹿ちゃんはいないの?」
「え?ああ、男鹿だったら…」
「東海林ー」
「男鹿君!」
タイミングよく部屋に入ってきたのはベルくんを頭に乗せた男鹿君。
「んあ?そいつらか、潰すの」
「ええええ違うよ違うから潰さないで」
「さっきの連中終わったのか?」
「おー」
聞けば私の電話を受け駆けつけてくれた二人は保健室から飛び出してきた(恐らく夏目先輩達に追い払われた)男子生徒に遭遇し、男鹿君がそれを伸したところ別の集団に囲まれ…それを倒して今に至るという。
「ごめんね、わざわざ…ありがとう」
「いや…つーかお前いつもこんないい部屋にいんのかよ!うお、これあれだろ、一瞬で湯が沸くやつ」
「一瞬じゃないけどね」
きょろきょろと部屋を見渡す男鹿君とその頭の上で同じようにきょろきょろするベルくん。
かわいいなあ。
「じゃ、大丈夫そうだから俺達は戻るよ」
「あ、ありがとうございました!その…」
「ふふ、東海林ちゃんちょっと耳、貸して?」
「?はい」
ちょいちょい、と手招きされ大人しく近付けば耳元でこっそり囁かれる言葉。
「え…」
その言葉に私がぽかんとしている間に二人は部屋を出て行ってしまった。
「都ちゃん?」
「何言われたんだ?」
「え、あ、えっと…ええええ?」
―神崎君、心配してたみたいだよ。素直じゃないけど
「(有り得ない、よ)」
また夏目先輩の冗談だろう。
だけど夏目先輩達に連絡を入れてくれたのは確かなわけで
「後で、メールしよう」
「誰に?」
「えっと…ちょっと、ね」
それよりお茶飲まない?お菓子もあるよ…と話を逸らしながら頭の中でなんてメールをしようか一生懸命考えるのだった。
「ヨーグルッチ…?」
一時間近くかけて打ったメールの返信はたった一言それだけだった。
さっきはいきなり切っちゃってごめんなさいとか夏目先輩達に連絡してくださってありがとうございますとかこの間の弁解とか、そういうメールの返信が、だ。
男の人だし、…神崎先輩だし、むしろ返信があっただけいいような気もするけどなんとなく釈然としない。
というか
「これは持って来いって意味なのかな…?」
ええええそれは嫌だな…だって神崎先輩はともかく姫川先輩もいるし…禿げちゃえばいいとか言っちゃったからな…うう…なんでそんなこと言っちゃったんだろう私。
気が付けばもうすぐ学校が終わる時間。行くべきか、行かぬべきか。行きたくないなぁ…でもお礼、だし、でも、
「神崎先輩のばかぁ…」
結局行かないという選択肢はないのだ。
ヨーグリッチは途中で買える。…今、行かなきゃ生徒にはち合わせちゃう。
「い、行かなきゃ…」
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