政宗達を司書室に残し恩師(なんと2人の担任らしい)のいるであろう生徒指導室へ向かう。
こんこん、とノックをしてから開ける扉。その向こうには少ないもののそれなりに怪我をした男子生徒が5人。…成る程、確かに好青年っぽいのが集まっている。
「どうだった加藤」
「一応粗方のことは聞きました。そちらは?」
「伊達と真田が一方的に絡んできて喧嘩になったとのことだ」
へぇ、と自分でもわかるくらい冷たい声が出た。
彼等を見る目も冷たいだろう。現に何人かは気まずそうに目を反らしている。
「こちらが聞いた話と違うので…そうですね、防犯カメラの確認をしましょうか」
「……!」
中にいる生徒達に聞こえるくらいの声量で言えば彼等が息を呑んだのがわかった。
「…そうか、お前はカメラのこと知ってたな…」
はああああ、と大きなため息を吐く恩師。
―基本的にこの学校の至る所に設置されているカメラの存在を知っている生徒はほぼいない。
監視されている、という息苦しさをなくすためというのが学校側の意見。カメラの存在を公開することで生徒の不祥事を防ぐ効果があるというのが私の意見なんだけどそれはまぁいい。
私が何故それを知っているかと言うと一度だけ在学中に防犯カメラに助けられたから。これは楓先輩も関係している事件なんだけどこれもおいておこう。
「人気のない場所にはたいていありますよね?勿論あそこにも」
「…そうだな。それが一番手っ取り早いか」
チラリと生徒達を見れば顔が真っ青に染まっている。
そんな顔をするんだったら最初からやらなければいい。最初から嘘なんか吐かなければいい。
バレてもいいって覚悟がないのならば、ね。
それからはあっという間だった。
防犯カメラの映像から彼らの嘘はバレ、余罪も沢山現れ彼らの逃道はなくった。
あの喧嘩についてはそれはそれ、これはこれということで先に手をあげた政宗と幸村も勿論処罰はあったもののそれも3日間の停学と図書館の雑用というものだけ。
「ったくつくづくお前は怒らせるとこえーわ」
「別に私はなんにもしてないですよ。ただちょっと校長の前でそれっぽいことをそれっぽく堂々と主張してきただけですから」
人一倍感動屋だった校長の扱いは先輩達からしっかり受け継いでみんな在学中によく利用させてもらったものだ。なんというか、文化祭とかで少し無茶な企画をやりたいとき無理やり感動要素をしれて熱意を持って訴える"フリ"をすれば大抵OKと頷いてくれたり。
あの頃は当たり前に生徒達に浸透していたやり方も今ではそうでもないらしく、私達が卒業する頃には教頭に怒られすぎて少しだけだけども警戒心を強めていた校長も久しぶりだからかあっさりと動かされてくれた。
そして他の先生方があんなに熱意の欠片もなかった加藤が本気を…!という失礼にも程があることを言いながら後押ししてくれたおかげもあって彼等の処罰は軽く済んだのだ。
それっぽいことをそれっぽく言うのは得意だ。7人と住んでたあの頃説明や説得が面倒な時よくそれで誤魔化していたし。
「あの頃は生きてんだか死んでんだかわからねぇような人間だったっつーのに本当に変わったな」
「まぁ…あの子達のおかげです」
「ほーん。
奴らは全員自主退学だとよ」
「へぇ」
「随分つめてぇな。新米教師ってのは大体こういう処罰を下したとき他に道はなかったのかって自分を責める奴が多いんだけど?」
そんな恩師の言葉に私は教師じゃないです、と苦笑を返す。
「それに」
彼等の場合は自業自得だし、なにより
「見知らぬ子よりも自分の子供達の方が大切なだけですよ」
ただそれだけだ。
「―――ったく、いっちょ前に母親みてぇな顔しやがって。まだ22歳だろ?」
「そうですねぇ。同じクラスだった斎藤さんの娘ちゃんは3歳になるそうです」
「まじかよ!」
母親みたいな顔、かぁ
なんか嬉しいかも。
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