2人を私の城(司書室)に連れて帰り温かいお茶をいれてから見事に腫れた頬や切れた口元の手当てをしていく。
あーあ、本当に男前になっちゃって。
「よし、他に怪我はない?」
コクンと頷く2人に苦笑してから救急箱を片付けた。
「あの、なんであきら殿がここに…?」
「ああ。昨日からここで働いてるんだよ」
「what!?」
「なんと!」
「うーん、いい反応」
けらけらと笑う私に2人は何故教えてくれなかったのかと不満気な表情。驚く顔が見たかったからだなんて絶対言えないな…。
「今度みんなご飯食べるって時に言おうかと思ってさ」
嘘も方便ってやつだ。
ところで。
「喧嘩の理由は?」
う…と黙り込む2人にそういうところもかわらない、と苦笑する。
「別に、言わないなら言わなくてもいいんだけどさ」
「…いいのでござるか…?」
「まぁ、私は教師じゃないしね」
少しは色々言われるかも知れないけどさ。
言いたくないってもの無理に言わせるのは面倒だし。
「ただ、言わないんなら何言われても何も言えないってことは覚悟しときなね」
ことの真実を語らないのならばどんな処罰をうけても、何を言われても文句をいう権利はないのだ。
それが嫌なら俺たちは悪くない!と騒いだ方がまだ格好いい。
「偉そうに説教できるほど出来た人間じゃないけど、一応母親としてね」
お茶、おかわりいる?と訊ねれば2人は俯いた顔をゆっくりとあげ、口を開いた。
あの倒れていた男子生徒は優等生で通っている連中だったらしい。
その連中がクラスの気弱な男子を脅して金を巻き上げようとしたのを2人が目撃し、止めようとして乱闘になった。…よくある話だ。
「…それで?」
なんで、とかどうして、という言葉は使わない方がいいような気がして、ただ続きを促した。
「最初はただ口で止めるだけだったでござる。ただ…」
「ただ?」
「……」
「何か言われた?」
こくん、と頷く幸村。
そっか…と呟いて天井を仰ぐ。
「最初に言われたのは俺だ。俺が言われて、こいつが殴った」
「けれど政宗殿が手をあげたのは某のことを言われたからで…!」
「うん。うん…わかってる」
今も昔も好敵手である2人はそれ故に年子の兄弟のような、年の近い従兄弟のような、生まれたときから一緒な幼なじみのような、そんな関係であると私は認識している。
仲はいい
けれど何かと張り合って、常に対等な
小十郎さんや猿飛に対する"一番気を許せる関係"とは違う、互いを"一番認め合っている関係"が2人を表すのには一番正しいように思えるのだ。
だからこそ2人は互いを傷付けられるのを嫌う。戦国に生きたあの頃よりもきっと今の2人はそれが強い。お互いをお互いが一番認めているからこそそれを馬鹿にされるのが嫌なんだ。
「何を言われたか聞いていい?」
政宗の右手と幸村の左手をやんわりと握り訊ねる。
「…いつもと一緒だ。俺は右目のことと…それから母親に見捨てられた人間だとよ」
「……某も、親のことと…それから佐助のことを親に捨てられたクズだと…」
政宗は、この時代でも母親の愛を知らずに育ったと聞いた。ただ一つ違うのは母親は政宗を殺そうとするのではなく、早々に彼を見捨て家を出たと。
幸村は両親は健在。しっかり愛されながらも訳あって"お館様"である武田信玄公の元に預けられ、猿飛は幼い頃に施設に入れられたのを同じく信玄公に引き取られたと聞いた。
「…へぇ…」
政宗と幸村、それから猿飛まで馬鹿にされ、優しい2人を傷つけられた。
「成る程ねぇ」
優等生?だからどうした。カツアゲをする人間が優等生なはずがない。
大切な息子たちを傷つけられたんだ。黙っている気は毛頭ない。
「あきら殿…?」
「mammy?」
ああ
久しぶりにぶちキレたかもしれない
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