そんなこんなで司書になったもののそれを誰にも告げずに一週間が経った。
今日は火曜日。出勤二日目になる。

いつもこの席に座っていたおじいちゃん(司書さん)がいないのは凄く変な感じだけど定年ならばしょうがない。あのおじいちゃんの懐の広さのおかげで私達はここで騒いだり出来たわけで、そう考えるとおじいちゃんには感謝しかない。
金曜日に来たときに挨拶に出来たからまだ、よかったのだけど。久しぶりに訪れたこの場所に、あの頃共に過ごした人達が誰一人いないのが少しだけ寂しくもあった。

政宗達には就職が決まったことだけ言ってある。恩師の紹介であっさり決まってしまったのだと。…嘘は言ってない。

図書委員長との顔合わせをし、他の委員達は殆ど来ないというあの頃から変わらない状況を彼女達から聞いて苦笑しながらそれでも困らないからいいよ、と返したのは昨日のことだった。

あの頃もまともに委員の仕事をするのは三人やそこらだったから。
うちの学校の貸し出しシステムは生徒手帳に貼られているバーコードと本の裏についているバーコードをハンドスキャンで読み込むだけの簡単なものだし、返す時も返却ボックスに返された本のバーコードを読み込むだけで終わる。

返しに行くのはやや面倒だが利用者は少ないしそんなに大変ではない。だからこそなんとか出来てしまうのが実情なのだ。


「にしても本当に利用者少ないなぁ」


若者の本離れってやつだろうか。

おやつのどら焼きを出しながらそんなことを考えている時だった。


「加藤!」


バタバタと騒々しい音を立てながら図書館に飛び込んできたのは私がここに勤めるきっかけになったあの恩師だった。


「どうしましたか?」

「いいからちょっと来てくれ!」


ぐいっと手を引かれ走り出す。緊急事態なんだろうけど、あの、どら焼き持ったままなんですが、えええ。

走っている内に徐々に聞こえてきた騒がしい声や音達。喧嘩、だろうか。

恩師、緊急事態、強制連行、喧嘩

…考えられる可能性は一つだけだった。

沢山の野次馬の中で体育教師に必死に止められている2人とうずくまる複数の男子生徒。


「連れてきました!」
「連れてきました…って加藤じゃないですか!あの2人を止められる人間がいるってから…」


どうやらそういうことらしい。

2人…政宗と幸村は完全に頭に血が上っていて正直体育教師じゃ彼等を止められるのは無理だ。

すぅ、と息を吸って2人にゆっくり近付く。
途中、何人かの教師に止められそうになったがそれをシカトして。


「そこまで!」


パンッ、と手を叩きながら声を上げればキッとこちらを睨みそれから徐々に驚きのものに変わっていく2人の表情。


「あきら…?」

「あきら殿…!?」


頭に上った血が収まった様子の2人に近付きはぁ、とため息を吐く。


「2人して頬腫らして…随分男前な顔になったんじゃない?」


呆れたように笑えば2人は気まずそうに視線を泳がして。

それがあの頃から全く変わってなかったから、つい笑ってしまう。


「先生方は怪我人をお願いします。政宗とゆきはちょっとお話しようか」


戸惑う教師達を後目に同じく戸惑う2人の手を引き歩き出す。


「あ、ゆきこれあげる」


幸村の口にどら焼きをつっこみながら。





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