「ここが食品売り場です」

「これ、全部が食糧…?」

「大体は」


戦国時代から来て一番驚くのはこれだと思う。飢餓の危険が殆どない豊かな世界。
色々とショックは大きいだろう。


「野菜を選ぶの手伝ってもらってもいいですか?私より目利きは確かでしょうし…欲しい物はこのカゴの中に入れて下さいね」


さて困った。買うのはいいがみんながどれほど食べるのかがわからない。

…取り敢えず冷蔵庫の限界にチャレンジする位買えばしばらく大丈夫だろう。幸い今日は週に一度の特売日だ。


「これはなんて野菜?」

「ピーマンです。苦味が強いから子供は苦手な子も多いですがなかなか美味しいですよ」

「これは?」

「トマト。赤茄子とも言われますね。瑞々しくって一般的には生で食べることも多いけれど加熱しても美味しいですよ。
気になるなら買ってみましょうか」


大根ときゅうりは家にあるし…キャベツは買おう。あ、そうだ。


「お二人は夕飯何がいいですか?」

「夕飯?…夕餉か。食えるものならなんでもいいぜ?」

「貴様がまともな飯を作れるとは思わん。刺身にしろ」


上げて落とすと言うのを二人掛かりでやられるといらっとくる。長曾我部は全く悪くない。むしろいい人過ぎるわけだが一貫して上から目線の毛利元就に一回お灸を据えたいと思う。

私の仕事は飽くまでも衣食住の確保で私が下手に出る必要はないのだ。多分。


「ふふ、では刺身にしましょうかねぇ。今の時代内陸部でも新鮮なお魚が手に入りますから」

「凄いでござるな!」


口調の変化に気付いたか、もしくは何かを感じ取ったのか。顔が引きつる三人を横目に全く気付かぬ真田幸村が声をあげる。
あぁ、この子は空気が読めないらしい。


「けれど、」


一旦言葉を切ってにっこりと笑う。


「新鮮と言えど海に近い土地に比べるとどうしても劣ってしまいます。
やはり皆様に食べていただくにはいいものを食べていただきたいのですねぇ…特にお二人は瀬戸内の生まれだったはず。お魚には五月蝿いと思います。
しかし料理が余り得意じゃないのも事実…。
あぁそうだこの地域ではお魚以外のお刺身も有名なんですよ?」

「さ、魚以外?」


ひくり、長曾我部の顔が引きつった。


「馬刺、というのですがご存知でしょうか?」

「ばさし…?」


「馬の肉、でございます」


今度こそ全員の顔が青ざめた瞬間だった。




その後は馬を食することにショックを受けた四人に「と、言いましても慣れないものを食べ皆様が体を壊しても困りますので焼き魚にしましょうか」と投げかけた私に四人がコクコクと全力で首を縦に振ったのを確認し未だ顔が青い長曾我部に目利きしてもらいながら魚を選んだ。


「ねぇ、この世界では馬以外にも肉を食べるの?」

「そうですねぇ。鶏や猪、兎は皆様のいた時代では食されてましたよね?他には猪を食用に改良した豚、という動物の肉や牛の肉も食しますよ」


牛も…?
はい
牛もでござるか…?
食べてみます?
…遠慮します


「牛肉は暫く止めておきましょうか」

「というか肉はそう簡単に食べれるものじゃないでしょ?」

「いえいえ。今は割と安価で手に入るので毎日のように食べますよ」


因みに卵や牛乳も安いと言えば本気で驚かれた。
カルチャーショックというやつだろう。

大量の野菜や魚が入ったカゴを乗せたカートを押しながら店内を歩く。あ、うどん安い。買っておくか。

後は小麦粉と…卵も買って、


「甘味も買いますかね」


和菓子売場をじぃっと見つめる真田幸村に苦笑しながら団子や大福をいくつかカゴに入れる。


「何か欲しい物とかありましたか?」


ある程度必要なものをカゴに入れてから四人を振り返ってそう聞けば猿飛佐助は首を振り、真田幸村は和菓子売場をもう一度見たものの猿飛佐助に制され諦め、長曾我部はきょろきょろと辺りを見回し、毛利元就は…


「これは何ぞ」


いつの間に持ってきたのかオレンジジュースを私に見せた。


「オレンジというみかんによく似た果実の汁を絞ったものです」


そう言えば何故か満足気に頷きペットボトルをカゴに入れた。


「ついでですし他にもいくつかジュースを買いますか」

決して真田幸村や長曾我部の視線に負けた訳じゃない。決して。

誰に対してかわからない言い訳を心の中でしながらいくつかジュースをカゴに入れついでとばかりにお酒もいくつか。


「さぁ、会計して帰りましょう」


レジのお姉さんが顔をひきつらせたのに心の中で謝罪した


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