「どう?調子は」

「あぁ、…昨日より大分いい」



―みんなが帰ってから2ヶ月が経ち、季節は夏に変わろうとしていた。


あの日気持ちのままに泣きじゃくって泣き疲れ、眠った私は夢の中で自称神に会った。


「…いい顔をするようになったな」


そう言って笑う自称神は初めて会ったあの日や電話で話していたときと雰囲気が随分違うように感じられた。



―そして私は事の真相を聞くのだ



話を聞き終えたときにはやっと止まった涙がまた溢れ出し本当に涙腺が壊れたんじゃないかとすら思った。それ位涙は止まらなかった。


何で私だったのだろうかとずっと思っていた。それが叔父さんが知らず知らずの内に結んでくれた縁だったなんて。




「もう、倒れたって聞いたときは心臓が止まるかと思いましたよ」


身辺の整理を終え叔父の住む東北へ来たのはみんなが帰ってから一週間後のことだった。

叔父の最期を看取る


その決意が私をこちらに残らせた唯一の理由
私が死ねないとした理由
私が身を守ろうと必死になった、理由


みんなが帰り、自称神から事の真相を聞いてからその気持ちが更に強くなった。私は、この人に出来る限りの恩返しをしたいと思ったのだ。


そしてそんな叔父が倒れたのは一昨日の事

その場所が本人の希望通りの社長室だったから本当に駄目かと思った。

けれどなんとか、周りの社員さん達の必死の処置で一命を取り留めこの病院に運び込まれ療養している状況だ。


「…私は社長室の椅子で死にたい」

「うん。何度も聞いた。私は叔父さんがそうしたいなら止めないけど…社員さん達の気持ちも考えてあげてね。叔父さんが倒れたとき、みんな本当に必死になってくれたんだから」


叔父さんに死んで欲しくない一心だったと社員さん達は笑ってた。叔父さんの人望の厚さがよくわかる。


「…なかなか人生はうまくいかない。だが、それがいい」



叔父さんが静かに逝ったのはその一週間後のことだった。
ばたばたと通夜の準備が進む中、私は一人縁側に座りぼんやりと中庭を眺めていた。




「(終わっちゃった)」


なんだか、此処一年ずっと忙しかった気がする。


夢で自称神に会って、強制的にバイトが始まって
七人が来て、最初はあからさまな敬語なんて使っちゃって。
打ち解けて、少しずつ心開いて、…旅行にも行ったっけ。

別れは悲しくて大泣きして

後は叔父さんを看取ることだけだった。じゃぁ、それが終わってしまったら?

また、来客が来たようだ。
通夜だと言うのにこんなに人が来るなんて。


「あーあ」


思ったより、平気な物だ。
もっと辛いかと思った。…否、まだ実感がわかないのかな。


「これからどうしよう」


なんか、なーんにもなくなっちゃった。


にー、


何処からか聞こえた鳴き声に、視線をずらせば綺麗な毛並みの猫が一匹

その猫は真っ直ぐと私を見つめ、そしてもう一度「にー」と鳴く。


「あんた、もしかして…」



あぁ、あんたもお別れに来たのか。


猫を抱き上げ、胸元に隠しながら叔父の下へ連れて行く。来客者が居たがどうでもいい


「ほら、お別れを言ってきな」


猫は私の腕から抜け出すと棺桶に手をかけ叔父さんの顔を覗き、そのまま数秒停止
それからにゃぁと一鳴きし、再び私の下へやってきた


「もう、いいの?」


ひらりと振られた尻尾は肯定の意味か


「あきら!何やってんの手伝いなさい!」

「…はーい」


母の怒鳴り声に適当に返事をしながらふと顔を上げる


そこには、先程からの来客者がいて


「あきら…?」


その中の一人が目を見開き私の名を呼ぶ


有り得ない
だって、そんな、



「小十郎、さん…?」



思わず逃げ出す私に追いかける足音

猫はいつの間にか居なくなっていた


「あきら!」


パシッと手を掴まれ抱き寄せられる


「あきら、」


あぁ、小十郎さんの匂いだ





―輪廻転生というやつなのだろう

私を捕まえた小十郎さんはぽつりと話し始めた


「前世の記憶は幼い頃から僅かにあった。政宗様に仕えていたこと、昔未来へ飛んだことがあること、…心に決めた女がいること」


どくん
胸が大きく高鳴った


「…全部思い出したのは二月前だ。お前の事はずっと探していた。まさか、こんな近くにいるとはな」


住んでいる場所が長野で、あきらという名前であること。それだけの情報しかない。
今何歳かもわからない。もしかしたら自分よりずっと年上かもしれない。ずっと年下かもしれない。

そんな人間を探していた、なんて。


「本当に、小十郎さん…?」

「あぁ。…お前に貰った御守りもある」


そう言ってスーツの胸ポケットから出てきたのは確かに私が渡した御守りで


「物心がつく前から気が付いたら何処からか見つけてきて持っていたらしい」


「これ、夫婦円満の御守りなんです。
でも本当の御利益は少し違って…この御守りの本当の御利益は、」



どんなに離れてもまた再び巡り会える
そんな御守り



「御利益、ありましたね」


あぁ、きっと今私は綺麗に笑えていないだろう。
涙が溢れ、顔はぐちゃぐちゃな筈だ


「…叔父さん、死んじゃいました」

「…あぁ」

「叔父さんのお陰でみんなに会えたんです。全部、全部叔父さんのお陰なのに、叔父さんにいっぱい助けて貰ったのに、何にも返せなかった…!」



恩返しがしたくて、でもそれをするには時間が足りなくて
本当に、何も出来なかった

それから悲しくて、悔しくて






「…加藤さんには仕事で散々世話になっていた。
姪の話もよく聞かされた」

「…」

「ふた月前、姪が自分のために此方に来てくれたと喜んでらした」


涙が、止まってくれない


「叔父さ…!」


少しは叔父さんに恩返しが出来たのだろうか
だとしたら、本当に―


*← →#
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -