朝起きたら花壇の水やりをやって猿飛と小十郎さんが作った朝食を食べ、洗濯物を干しながら幸村や政宗の鍛錬を眺める。
みんなが帰るという事実を伝えた後も変わらない日常風景に、ほっと胸をなで下ろした。
しんみりしたいわけじゃない、一生懸命思い出を作ろうと躍起になりたくない。
みんなが帰るその時までこの日常を楽しみたいと思っていたから。
「あきら殿!」
「mammy!」
ただ一つ変わったと言えば、二人が今まで以上に甘えてくるようになったことか。
みんなが帰るまでに抱き締め癖をなおそうと思った事もあったが諦めた。無理だもん。だもんとか気持ち悪いな自分…。
昼餉出来たよーという猿飛の声に時計を見れば長針と短針が真上で重なり正午ちょうどを指していた。
「…あと、二日」
明後日のこの時間、みんなとさよならすることになる。
「(寂しく、なるなぁ)」
▽
昼食をとり食休みと称しみんなでのんびり過ごしている時間。
私は大きな袋を持ってリビングにいた。
「なぁに、それ」
ひょこっと後ろからのぞき込んでくる猿飛をシカトし袋の中から八つの包みを取り出す。
「はい、みんな集合!」
パンッと手をたたくと集まってくる七人と一匹。
「はい、ゆき。こっちが政宗、これが元親。これが元就で、慶次はこれ。上のは夢吉ね。で、猿飛さんと小十郎さん」
一人一人手渡したのはこの間買ったみんなへのプレゼント。
「私からのささやかな贈り物です」
キョトンとしている七人に小さく笑いながらそういうと七人が同時に手元の包みに視線を落とすからつい面白くて今度は声を上げて笑ってしまった。
「な、中身を見てもいいでござるか…?」
「勿論」
頷くと幸村はうきうきしながら、けれど丁寧に包装紙を剥がしていく。幸村は動作が荒々しいイメージがあるけど実はとても綺麗な動作をする。
育ちの良さがわかるね。
「…!髪紐でござるか!?」
「髪紐だねぇ」
因みにお揃い、とポケットに潜ませていた髪紐を見せると嬉しそうに顔を輝かせる幸村。…かわいい。
「これ…」
「元親は髪を切るためのハサミ。使うかわからないけど…美容院で欲しそうにしてたから」
「ありがとな!」
おお、かわいい笑顔。
幸村は髪紐
元親は鋏
「…」
「あれ、気に入らない?」
「ふん…貰ってやってもよい」
クソ生意気な…げふん。
僅かに頬が赤くなっているってことは気に入ってくれたのかな。元就には前に買い物に行ったときに筆のセット。今回の買い物で一番の出費になったものだ。
慶次には刀に付ける組み紐。
猿飛にはフライパン…ってのはまぁ冗談で少し前に欲しがっていた工具セット(とは言え元親が持っているようなものではなく向こうに持って行っても問題ない程度のものだ)(城の修理がどうこう喜んでいた。彼は向こうでどんな仕事をしているのだろうか)
「Ah…煙管か」
「煙草、吸うんでしょ?体に良くないからあんまり吸って欲しくないけど…似合いそうだしね」
政宗には煙管。本来の姿の彼なら凄く似合うだろう。
そして
「…御守りか?」
「はい」
小十郎さんへのプレゼントに選んだそれは近くの有名な神社で買ったもの。
「因みにお揃いです」
小十郎さんは深緑、私は薄紅色。本当は青か茶色にしたかったのだけど残念ながらなかった。
「何の守りだ…?」
御守りには珍しく神社の名前しか書かれていないそれを眺める小十郎さんに「内緒です」と小さく笑う。
「向こうへ持っていける物は三つだけだから今渡した物は持って行かなくてもいい。ただ、何か渡したかっただけだから」
ありがとう、という言葉と笑顔がみれただけで十分だ。
そう考えて、自分も変わったものだとしみじみ思う。
昔はこんな考えかたしなかったのに。
―昨晩、初めて自分の気持ちを口にした私に小十郎さんは目を見開き、それから無言で私を抱き寄せた。
お風呂上がりなのにも関わらず小十郎さんからはあの暖かくて安心する匂いがして、何故だか泣きそうになったのを覚えている。
ただ、抱き締められただけ
それでも私には十分で
無言で抱き締め合っていた
「やっと、だな」
小十郎さんの言葉はそれだけ
それがやっと気持ちが通い合ったという意味ならば私の心がいつ奪われたのか懇々と話してやりたいとも思ったが、今まで小十郎に甘え気持ちを黙っていたのは自分だからと何も言わずにくすりと笑うだけにしておいた。
「(…もうずっと、大好きだったんですよ)」
口には出さない言葉。
ただ隣にいるだけで暖かい気持ちになれたこと
大きなその手が大好きなこと
政宗に嫉妬したことがあること
あの告白が、泣くほど嬉しかったこと
言いたい事はいっぱいあるけども、それを口に出すべきではないと理解していた。
…もう、あと三日も一緒には入れないのだから。
御守りの御利益がなんなのかは言わない
それはなんとなくだけど
御利益があればいいと思う
所詮自己満足なんだ。
夫婦円満の守り
表面上はそう言われる守り
だけど神主に聞いた本当の御利益
「(どんなに離れていようとも再び巡り会える)」
あの神社の守りにはそんな御利益があるという。
神なんて信じてはいないけど、ね
(自称神がいるがやつはあくまで自称だ)
お別れまで、あと2日
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