あれから

自分一人でぐだぐだ考えてんじゃねぇだのお前は本当に馬鹿だの散々説教(一部ただの悪口)をされ、夕食を取りチビ達は床についた。
あと三日…もないんだけど…しかないからと寝るのを渋ったゆきと政宗も体には逆らえずついさっき夢の世界へ。


そして大人組はいつも通りの晩酌。


「はい、あきらちゃん」

「ありがとうございます」


猿飛に渡された自家製の梅酒(ロック)が入ったグラスを手にソファーに沈む。


「忙しい1日だった…」

「誰のせいだと思ってんのさ」

「まぁ、私ですけどねー」


あははははと乾いた笑みを浮かべながら肩に乗ってきた夢吉を撫でる。


「本当、自分一人で背負い込むんだからなー」

「そういう性分みたいだよ」

「また他人事みたいに」


呆れたような顔をする慶次に梅酒を一口呑んでから苦笑する。


「今まで誰かに相談するとか、そういう環境にいなかったからさ」


親は頼れる筈ないし、姉妹も論外。祖母にも、なんだかんだ相談なんかしたことなかった。


「これでも、誰かさん達のせいで人を頼る様になっちゃったんだけど」


本当迷惑な話だ。

…なんてね。


自嘲気味に笑う私の頭を撫でるのは小十郎さん。

誰よりも、安心する手。


「そうしちまった責任をとりてぇとこだがな」

「こればかりはしょうがないかな」

「あー…、連れて帰れたらいいのに」


そんな三人の言葉に今度は苦笑でも嘲笑でもない、素直な笑いが零れる。


「ありがとう」


変わることが怖かった
自分の殻に篭もって出ようともしなかった私
それを少しずつ
本当に自然に変えてくれた

変わったことは、いいことばっかではなかったけど
それでも、変わったことを嬉しいと思えるから。




それから一時間位して
まず慶次、それから猿飛が部屋に戻り、居間は私と小十郎さんの二人きりになった。


「あきら」


無言でお酒を呑む私の名を呼んだのは心地の良い低音。


「なんですか?小十郎さん」


顔を上げれば真っ直ぐ此方を見つめる双眼。



「旅行の日、俺が言った言葉を覚えているか」



好きだなぁ、なんて漠然と思った私の胸はその言葉にドクン、と大きく高鳴った。



「…覚えて、ます」



忘れられる筈がないあの言葉。



「俺はあと数日で元の世界に帰る」

「…はい」

「あの時の言葉は勢いで言ったといっても間違いじゃねぇ」

「はい」

「だが、あの言葉に偽りはない」



自分が息を呑む音が、やけに大きく聞こえた。



「本当は連れて帰りたい」

「…」

「だが、お前は来ないだろうな」

「…はい」



私は行けない

行けない理由がある



「俺も、あんな危険な場所にお前を連れてくのは辛いしな」

「…それ天然ですか?」

「さぁな」

「……ずるい」


いつから間違えたんだろう。
一目見てわかった。この人は駄目だと。気を許したら依存してしまうと。とことん、甘えてしまうと。

だから距離を置こうとしたのに、いつの間にかこんなに好きになってしまっている。

本当。ずるくて、優しくて、残酷な人だ。



「小十郎さんは」

「…」

「小十郎さんはずるいです。
私は行きません。それは絶対。なのに揺らいでしまう。だけど結局自分が行くという決断を下さないってわかってるから、切ないのに、小十郎さんはいつもそうやって私の欲しい言葉をくれる」


そうやって私を甘やかすから縋りたくなる。




「…好きです」




それは、私が初めて口にした言葉


その言葉に笑う小十郎さんの顔が綺麗過ぎて、
私の心臓はまた大きく高鳴るんだ


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