馬鹿だな、あいつ
そう言って笑ったのは七人が此方へくる際に現れたきり姿を見せなかった男だった。
あきらが部屋を出て行き、辺りを沈黙が包む。
そんな部屋に響いたのは"んぁ?"という見知らぬ男の気の抜けた声。
けらけらというそれに五人がバッと顔を声の方へ向ける
そこにいたのは、見覚えのある顔。
「あんた、」
たしか、あの時の…
そう呟いたのは猿飛。
「二人足りねぇな…」
部屋を見渡しふむ、と頷いた男がパチンと指を鳴らすと男の正面に先ほど部屋を飛び出した二人が現れた。
「な!?」
驚きの声を上げたのは誰だったか。
「これで全員揃ったか」
突然リビングに召還された二人は状況を呑み込めずに固まったまま、それでもキッと厳しい目で男を睨んでいた。
「久しぶりだね戦国を生きる武将達。自称神です」
にっこりと笑うその顔はこの空気に不釣り合いで、酷く不気味に見えた。
「で、だ」
ぽかんとする七人を前に男は宙に浮きながら足を組み話を切り出す。
「あー…話したんだっけか?馬鹿だな、あいつ」
心底呆れたように、しかし愛おしいものを見る様な目で呟く自称神。
「あれ…あきらちゃんが話した内容は本当?」
「あぁ。まぁ、あれが全部じゃないけどな」
はぁぁぁぁあ、と大きなため息を吐き男は苦笑する。
「あいつがお前らに対し黙っていたことは2つ。お前らの敵意、殺意を違和感ない程度に抑えたことと自分自身のことだけ」
「あきら殿、自身の…?」
「あいつも自分の感情をいくつか封印したからな」
人見知り、自傷願望…いや、自傷衝動、それと人を恐いと感じる感情。
「何人かはあいつの家庭環境を知っているな」
その言葉に反応したのは前田、猿飛、片倉の三人。
「あいつの人間不信は根強い。だから封印したんだが…まぁ全部あいつの保身のためだな。
俺があいつにしたお前らに対する説明は"戦国時代武将"であることとお前らの"名前"、体格に対するデータのみ。
性格も何もわからねぇ状態だ。戦がない泰平の世で育ったあいつが身の安全を確保しようとするのは当然だろ?今回はたまたまお前らみたいな奴等だったがそれが明智や織田、豊臣のような人間だという可能性もあったんだからな」
数年前のあいつならともかく今のあいつには死ねない理由があったからな、と男は続ける。
「ま、それがあいつの隠し事だ。だけど一つ言っておくがあいつはお前らに嘘は吐いていない」
「………!」
「因みに言っておくがあいつ自身に掛けた封印もお前らに掛けた封印もとっくに解けている」
「それじゃ…」
「あいつがそれをその時ではなくこのタイミングでそれを話したのはあいつの弱さだな。…まぁ、お前らのことを考えて言わないっつー選択肢を選ばなかっただけでも成長か。
…っと、時間だ。これ以上のことはあいつに直接聞くんだな」
一方的に話し現れた時と同じく音もなく消える男に七人は驚きを露わにするがそれより何よりも、男が語っていった話にそれぞれ思うことがあるのか、戸惑いが目に見える。
「…あきらちゃんは本当不器用だね」
「どっかの誰かみてぇじゃねぇな」
「ちょっと右目の旦那。それ誰のこと?」
そんな中おちゃらけた様子で、けれど呆れたように言う猿飛に口元に小さく笑みを浮かべながらそれを茶化す片倉。
猿飛は片倉の言葉にむっとした表情を浮かべるが片倉はそれに「さぁな」とだけ返し自らの主を仰ぐ。
「政宗様」
「…小十郎。なんであきらはわざと勘違いさせるような言い方をしたと思う」
「政宗様も、おわかりでしょう」
部屋を見渡せば一同同じ考えにたどり着いたらしく苦笑するもの、難しい顔をするもの、顔を明るくするもの
その表情は様々だが、みんな気持ちは一緒だろう。
「取りあえず、あの我が儘野郎のとこ行くか」
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