みんなが帰る日時
持ち帰れる物の指定
帰ったら時間、運動能力、記憶
全てズレなくここに来る直前のものに戻れること

全部説明した。


―――問題は、ここから




「あとは…」

「まだ、なんかあるの?」


猿飛の言葉に笑みを浮かべようとして…失敗。だけどそれに気付かない振りをして下手くそな笑顔を作る。


「これは私の勝手な謝罪だけど、聞いて欲しい」


手が、声が、小さく震える

俯いて、目を閉じて
一回息を吸う。

言わないことは、許されない。


「みんなにずっと言っていなかったことがあるんだ」

「言っていなかったこと、でござるか…?」

「不思議じゃなかった?みんな、こっちに来てから一度も」



"私に、敵意を抱いていないんだよ?"



私の言葉に、何人かがバッと顔を上げる。


主を護るため、常に周りを警戒していた猿飛と小十郎さん
人一倍警戒心が強い政宗


「警戒はしても、傷付けようとしなかったはずだ。
私を殺したらみんなも消滅する。それは本当。最初に説明したはず。
だけど理由はそれだけ?武器がなくとも包丁、ナイフ、ハサミ、カッター、鎌…この家にはいっぱい凶器に成り得るものがある。
意図的にじゃなくともいい。私が幸村に触れようとしたとき、私が政宗に触れようとしたとき
反射的に私を攻撃してしまうこともあったはずだ。
だけどそれはなかった、でしょう?」


「―なんか、いじったわけだ」


何時もよりも何トーンか低い猿飛の声。
予想通りの、反応。


「みんなの殺意を封じさせてもらった。みんなの敵意を最低限にさせてもらった」

「なんで…っ」

「保身のため、だよ」



戦国武将を相手にするなんて私にとって恐怖しかない
いつ殺されるか。いつ傷付けられるか。考えるだけで恐くて仕方なかった。


「まだ、死ぬわけにはいかないから」


小さく呟いた言葉は誰にも届かす空気に溶けて消えた。


「封じたのはみんなのものだけでなく、私のもだけどね」




ただ、安全に暮らすために
ただ死と隣り合わせの生活を避けるために




「…俺達を騙していたのか」

「政宗!」

「…うん。ずっとね」

「あきら!」



政宗から流れる不穏な空気に宥めるように慶次が声を上げるが、それを無視し私も頷く。



「どこまでが嘘だ」

「…さぁね」

「sit!」

「政宗様!」



吐き捨てるように言って走り去る政宗の後を小十郎さんが追い掛ける。

猿飛の視線が厳しい
幸村は戸惑い
元就の表情は読めない
元親は難しい顔をし
慶次な幸村と同じく戸惑った様子



「三日後の正午になれば何もしなくても自然に帰れます。
持ち帰りたい物があれば決めておいて下さい」




それだけ告げてその場を後にする。


階段を上がり、自室に入り、扉を閉める
ベットに倒れ込んで目を閉じる


「(これでいい)」


最後まで隠し通してもよかった
最後まで隠し通すつもりだった

だけど、予想以上にみんなが心に侵略してきてしまって
もう、無理だった



「(私がこんなことを考えるようになるなんて)」



仰向けになって、左腕を天井に向けて伸ばす
服の袖を捲れば上腕に現れる古傷

それは、かつて自分でつけた傷


私が、自称神に頼んで一時的に消して貰っていたものだ。

他に封印したのは三つ

一つは人見知り
もう一つは自傷願望
そしてもう一つは、"人が怖い"と言う感情



それは全てみんなが此方へくる直前に封印してもらい
半年で封印が解けた

なのに封印が解けたあともみんなが恐くなかった
普通に、当たり前に、"私"として接していた

それに気付いて、それから戸惑って
そして決心した。



(私は、あの子達が笑っていられるのなら―――)





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ラストスパートです


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