―桜、綺麗ですね。
―あぁ
―元就が桜餅食わせろって言ってました
―…あいつは真田か
そんなたわいもない会話をしながら二人並んで桜並木を歩く。
二人の距離は恋人より少し遠く、知り合いより近い、そんな距離。
…付き合いたてのカップルか。
「もうすぐ我が家の桜も満開だから、満開になったらお花見でもしませんか?」
「なら、腕によりを掛けて料理作らねぇとな」
ふ、と小さく笑う小十郎さんに目を奪われる。
いけないいけない、落ち着け心臓。
「…私も何か作りますよ。
桜餅は猿飛さんにお任せしますか」
団子に大福なんでもござれ
あっという間に作り上げてしまう。
そして美味い。
彼は本当に忍なのだろうか。オカンの間違いでは?
小十郎さんがいる側の手で持っていたスーパーの袋を逆の手で持ち帰れば僅かに感じる小十郎さんの視線。
何かを促すようなそれに少し躊躇いながらも小十郎さんの洋服の裾を掴めばそりゃもう優しい笑みを向けられ…あぁもう!本当に狡い!この人!
「あきら」
「な、なんですか?」
「…いや、いいもんだな、こういうのも」
「……そうですね」
この関係に名前はなくてもただ二人穏やかにたわいもないことを話しながら並び並木道を歩く
しかも、好きな人と
少し前の私なら有り得ない光景
少し前の、…いや、本来の世界で生きる小十郎さんなら有り得なかったであろう光景
「たまに思う」
ぽつり、呟く小十郎さん
「政宗様が産まれたのがあんな時代でなくここみてぇな泰平の世だったらと」
そしたらあんな病、簡単に治せたのではないか
そうしたらあの方は母親から愛情を受けて、幸せに生きれたのではないか。
あんな風に心に傷を負われることもなく、普通の子として年相応に過ごせていたのではないか、と。
そう、どこか遠くを見詰める小十郎さんに、彼の言葉に込められた意味を思う。
「確かに、政宗が冒されたと言う病は既にこの時代に存在しません」
この世界に生きる、政宗か
「もし、この世界に彼が生まれていたら、身分や家柄で悩まされることもなかったかもしれません」
想像つかないけど
年相応に悩み、泣き、笑う。そんな普通な少年になるのかな。
「だけどあくまでそれはもしもの話で」
いくら想像しても、それはもしもでしかない。
「病に冒されて、母親に嫌われて、その他にも沢山、沢山苦しんで。
それで今の政宗と人間が出来上がったのなら、私は何も言えません」
今の政宗はあの時代に産まれたからこそ生まれた政宗だから。
「私は泰平の世に暮らしてます。
人を殺したことなんてないし殺されかけたことも…まぁ殆どないし、だからそっちの世界のことはわかりません。
だけど思うんです。
政宗も、幸村も、猿飛さんも、元就も、元親も、慶次も、小十郎も。みんなそれぞれ心に深い闇があって、それでもあんなに優しい。あんなに、暖かい。
そんな子達だから、いつかここみたいな泰平な世を作ってくれるんじゃないかって。
小十郎さん達はある意味ツいてるかもしれませんよ?いくつかの可能性の内に確実に存在する泰平の世をこうして実際に見れているんだから」
「―――そうだな。こういう世界を作るんだ」
所詮綺麗事
頭の中で誰かが呟く。
わかっている。そんなの所詮綺麗事だなんて。だけど、私は本当にそう思うから
「小十郎さん」
「なんだ」
「手、繋いでもいいですか?」
「…あぁ」
タイムリミットまで、あと五日
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