あきら殿!あれはなんでござるか!? あーもう旦那落ち着いて!
目をきらきらと輝かせ此方を振り返る幸村とそれを宥める猿飛。見飽きるほど見てきた光景だ。
今日は何故か幸村、猿飛の主従コンビと一緒に近所で開催されている恐竜展に来ている。
本当は元親が来るはずだったのだが少し風邪気味だったので変わりに幸村が来ることになり保護者が一人だと大変だということで猿飛もついてきたのだ。
「ゆき、周りの人の迷惑になるから走っちゃ駄目」
「も、申し訳ございませぬ…」
「あれはティラノザウルス。恐竜の中でも一番大きいって言われてる恐竜だよ」
幸村は見たこともない恐竜の模型にはしゃぎまわり猿飛はこんなのがそこら辺にうじゃうじゃいたとか嘘でしょ?なんて信じられないようだ。
「あきら殿、この恐竜というのはもういないのですか?」
「うん。恐竜はもう絶滅しちゃったからね。絶滅の理由は諸説あるけどまだ明確な理由はわかっていないんだよ」
「こんだけ大きな生き物が絶滅しちゃうんだからよっぽっどの事があったんじゃない?」
それからもあれはなんだこれはなんだと騒ぐ幸村とそれを止めながら感心したように恐竜を眺める猿飛を連れながら会場を一周し外に出たのはここに来てから二時間が経った頃だった。
「もうこんな時間か…」
「某おなかが…」
「そうだね。お昼にしようか」
留守番組に昼食は外でとっていくと告げてあるので(変わりに元就に土産(甘味)を要求されたけど)(あれは単に自分が食べたかっただけだ)(あの甘党め)問題はない。
「何食べたい?」
「ケー、」
「ケーキは食後ね」
そんな目を輝かせても駄目だから。
…そんなしょんぼりされても。
「…そ、蕎麦が食べたいでござる…」
「蕎麦か…近くに美味しい店あるから蕎麦を食べてケーキ屋行って和菓子屋でお団子買ってから帰ろうか」
「団子でござるか!?」
「団子でござるよー」
もー、旦那甘やかさないでよね、とぶつぶつ言ってるのが若干一名いるが一つ言いたい。団子は家で待つわがまま猫のリクエストだ。
ざる蕎麦以外は蕎麦じゃないとかなんとか言ってる猿飛をシカトしながら月見蕎麦をすする。
うん。美味しい。
顔の周りに汁を飛ばしている幸村の顔を拭きながら自分の蕎麦を食べる猿飛は本当おかん。
「(ゆきこんなんで帰ってから大丈夫かな…)」
こっちに来てから中身まで幼児化してしまった幸村。
確か向こうに戻ったら体力とか勘とか、そういうのは向こうにいた頃に戻してくれるとは言っていたがちょっと心配だ。
「(こんな優しい子が戦に出てるん、だもんな…)」
時代とは世知辛いものだ。
「なんか餡蜜食べたいなー」
「!餡蜜!」
「こら、後でケーキ屋も行くんでしょ?」
「そうなんですよね」
餡蜜…けぇき…餡…くりぃむ…
ケーキと餡蜜の間で揺れてる幸村の葛藤の声が聞こえる。
餡蜜…けぇき…善哉…
いつの間にか誘惑が増えている。
「ゆき、ケーキは明日にする?」
「明日?」
「あんま美味しくないかもしれないけど明日作ってあげる」
「あきらの手作りでござるか!?」
うん、と頷けばそりゃもう輝かんばかりの瞳でこちらを見る幸村。
その姿は例えるなら尻尾をはちきらんばかりに振っている犬もしくは凄い勢いで車輪を漕ぎまくるハムスター。
そ、そんなに喜ばれるとプレッシャーが
「まーたそうやって旦那甘やかす」
「私が食べたいんですよ」
今度は餡蜜か善哉かで悩み出した幸村に苦笑を一つ。
「私が餡蜜頼むからゆき善哉頼みなよ。半分こしよう」
パァッと表情を明るくする幸村。
猿飛の「破廉恥何処行ったんだよ旦那…」なんて言う声はスルーだ。
明日はケーキ作り
タイムリミットまで、後八日。
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