自称神からタイムリミットを告げられてから一晩が明けた。
あと数日後には七人がいなくなるという自覚はまだなくてただぼんやりと過ごした昨日。
私としては、いつもの日常のままさよならするのが理想。
これはわがままなのだろうか?
わがまま、か。
「でもなー」
うーん。
「ま、なんとかなるか」
難しいことは後で考えよう。
昼下がり
お腹も膨れ、春の暖かな日差しに眠気が襲ってくる時間
例に漏れず縁側に腰掛けうつらうつらしていた私は膝に感じた僅かな重みに半分閉じかけていた瞼を開ける。
「…どうしたの慶次」
「んー?」
ごろんと横たわり私の膝に頭を乗せる慶次の顔をのぞき込めば口元に笑みを浮かべ目を閉じている。…このまま眠る気だな?
「ったく…」
ため息をつきながら小さく笑いその頭を撫でれば慶次が乗っているのと反対側の膝に夢吉が乗ってきた。
どうやら夢吉もおねむらしい。
幸村と政宗はさっきから既に夢の中。小十郎さんは畑仕事、猿飛は確か洗濯物を畳んでいて元就は読書中。元親はプラモデルを作っている。
珍しく静かな家の中。
慶次はいつの間にか本格的に眠りについている。
慶次の長い髪を梳きながらふぁ、と欠伸を一つ。
「おやすみ、慶次」
それからどれくらい経っただろうか。不意に左側に感じた温もりに目を開ければふわりと香る汗と土の香り。
「こじゅうろ、さん?」
目を擦りながら左上を仰げば私の隣に座りなんとも言えない表情で此方を見ている小十郎さん。ついでに言えば何故か私は小十郎さんに寄りかかっていた。
膝には相変わらず慶次の頭。
「…お前は無防備すぎる」
それが慶次のことを言っているのかうたた寝の事を言っているのかはわからないけどもなんとなく両方な気がする。
「ねむい…」
「寝るならその膝のに乗っているものを落としてからせめて家の中で寝ろ」
「ん…もう少しこのまま」
小十郎さんの肩に頭を乗せ、甘えるようにすり寄る。
後数日間の付き合いだから
素直に甘えられる
駄目だとわかっているのに、甘えてしまう。
誤魔化して
目をそらして
ずっと逃げていたけれど
やっぱり私はこの人の事を―――
「(参ったなぁ)」
目頭が熱くなるのを小十郎さんの肩に顔を押し付けることで誤魔化し再び襲ってきた眠気にあらがうことなく眠りについた。
次に起きたとき、私の視界にはパチリと目を開けた慶次の笑顔。
…ね、寝顔見られた…!
「おはよう」
「…おはよ」
小十郎さんはいつの間にかいなくなっていて変わりに何故か猿飛が隣に座っていた。…本当に何故。
「おはよーあきらちゃん。右目の旦那なら今汗流しに行ってるよ」
「はぁ…で、なんで猿飛さんが?っていうか慶次起きたなら退いて。足痺れた」
促すように頭をぽんぽんと叩けば大人しく起き上がる慶次。夢吉は未だに夢の中だ。
「いやー、右目の旦那があまりに不憫だったからつい変わってあげちゃったんだよ」
「不憫?」
「そりゃ自分のいい人が違う頭に乗せながら無防備に寝てることに怒っていいのか甘えられていることを喜べばいいのか複雑でしょ」
「あー…」
それは悪いことをしてしまった、のか?
ちなみにこの二人には小十郎さんに告白されたことが知られている。
だからなんというか…やり辛い。元来恋バナとかは苦手な性分なんだ。
「真っ赤になっちゃってかわいー」
「…死ねばいいのに」
「あきらちゃん!?」
ふぁ、と欠伸をしながら立ち上がる。
痺れはほとんどなくなった。
「今日の夕飯、久しぶりになんか作りますよ」
「どうしたのいきなり」
「なんか無性に料理したい気分なんですよ」
無茶がある言い訳だとわれながら思うけどまぁいい。
何を作ろうか。
和食は猿飛や小十郎さんには適わないから(女として複雑な気分だが)ハンバーグでも作ろうか。
みんなが抵抗なく食べれる鶏肉で。
限られた時間で出来ることを精一杯やってあげたい、そう思ったある日の夕暮れ
タイムリミットまで後九日
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