おはよう、といつものように挨拶しながらリビングに入れば猿飛と小十郎さんは台所、慶次はテレビを観ていて幸村と政宗は鍛錬。元就は日課の光合成をしていて元親はプラモデルを組み立てている。

いつもの光景。この光景が"いつもの光景"になったのはいつだったか。


「おはようあきらちゃん。今日も眼鏡なんだ?」

「おはようございます。
本当花粉症勘弁してほしいです」


いつもはコンタクトな私はここ最近花粉症のせいで眼鏡だったから不思議に思う人はいない。潤んだ目も赤い目元も最近ずっとだったから。

おはよう、と挨拶する他の三人に返事しながら縁側から庭に降りホースを手に取れば光合成を終わらせた元就が如雨露を片手に現れる。これもいつものこと。

如雨露を持った元就はなで回したいくらい可愛い。

ここ数ヶ月で大きく変わった花壇は季節を一回りしそろそろ枯れる頃。
この間新しい花は何を植えようか、なんて元就と話したばかりだった。


「あきら殿!聞いて下され!」

「Sit!言うな幸村!」


バタバタと現れた二人におはよう、と言いながら今日はどうしたのかと苦笑。この二人は所謂ライバルというやつで、何かと張り合っている。

この様子だと幸村が政宗に勝ったとかそんなんだろう。


「今日は三回手合わせし三回とも某がかっむぐっ」

「いちいちあきらに言うんじゃねぇ!」


何かある度に嬉しそうに報告にくる幸村はまるで母親に対する幼児のそれみたいで苦笑する反面可愛いと思う。

対する政宗だって自分が勝ったときはまるで褒めろと言わんばかりに報告にくるのだからどっちもどっちだ。


「よかったね、ゆき。ほら、二人とも手を洗ってついでに顔も洗ってきな?そろそろご飯の出来る頃だよ」

「はっ、朝餉!」

「てめぇは本当に食うことと戦うことしかねぇな」

「な…!政宗殿こそ…!」


軽口を叩きながらバタバタと家の中に消えてく二人を見送って脱ぎ散らかしてあるサンダルを揃えて元就の手を引きリビングに入る。
そういえば最近元就が抵抗しなくなった。


「キキッ」

「わ、夢吉!」


ひょいっと肩に上ってきた夢吉に一瞬よろけるがなんとか持ちこたえ頬ずりしてくる夢吉の頭を撫でる。
その隙に元就に逃げられたが…まぁいいや。


「ご飯出来たよー」


クリスマスにプレゼントした割烹着を身に纏っている猿飛を生暖かい目で見やり「はーい」と返事をして定位置に座る。
右隣は慶次で左隣が元就、正面が政宗だ。

朝食のメニューは焼き鮭に玉ねぎとジャガイモの味噌汁、菜の花のおひたしに沢庵。
まさに日本の朝食。


「いただきます」


うん、美味しい。
なんというかここまで美味しく作られると女としてのプライド(殆どないけど)やあんたら本当に忍?武士?とかいうツッコミとかほら、ね?

それすら感じなくなった私もあれだけども。

…そういえばこのご飯が食べれるのもあと10日なのか。

それを過ぎたら実家に戻るにしろ一人暮らしをするにしろまた自分で全ての家事をする生活に戻る。


「(今から、慣れとくべき?)」


いや、慣れるも何も元の生活に戻るだけなんだけど、その元の生活がいつもの日常に戻るまでどれくらい掛かるだろうか。

順応性はある方だ。
そうでなくとも人生八十年。少なくとも後五十年は残っている。

いずれ慣れる。


「あきらちゃん?」

「ん、なんですか?」

「…いや。塩がそろそろ切れそうなんだよね」

「じゃぁ後で買いに行きますねー」


塩か…確かあのスーパーが今日は安いはず。
ついでに化粧水も買わなきゃもうないな…


「(やっぱり猿飛は気付くか)」


"何があった"かはわからなくとも"何かあった"ということには。

だけどきっと問いただしたりはしないだろう。彼はそういう人物だ。





―タイムリミットまで後10日


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