例年より幾分早く梅雨が明け晴天続きの日常が帰ってきた。
花壇に植えたパンジーも順調に育ち片倉農園の方も順調らしい。
先日ショッピングモールで買ったお揃いのカチューシャをつけて洗濯物を取り込んだ猿飛から洗濯物を受け取り畳んでいく。
太陽の匂いがすくタオルに顔を埋めて「気持いー」なんて笑いながら。
「あきらちゃん何か飲む?」
洗濯物を大体片付けた所で猿飛から声が掛かりそれに「麦茶」と返しながら最後の一枚をたたみふぅ、と息をつく。
はい、と渡されたグラスを持ってソファーに座り窓の外で元気に遊ぶ幸村達を眺める。
…今日も元気だな…
「隣、いいか」
「あ、どうぞ」
畑仕事を終わらせ返ってきた小十郎さんのために少し横にずれて麦茶を一口口に含む。
うん。美味しい。
「あきら」
「ん?何元就」
「この字は何と読む」本を片手にやって来た元就を膝の上に乗せあぁ、これは…と字の読み方と意味を教える。
平仮名をマスターし、漢字も徐々に覚えてきた元就は最近こうしてわからない漢字や単語を時たま尋ねてくるようになった。
それは片仮名言葉に多いが同じくらい漢字も多く今度片仮名辞典と漢字辞書をプレゼントしようかと企んでいる。
意味を教えればもう用事はないとばかりにあっさり膝から降りすっかり定位置になった和室スペースの一席に戻る元就。
良いんだけどね、別に。ただ礼の一つは言えよとか思わなくもなかったりするんだよね。
「あきら!」
「あきら殿!」
次にやって来たのは外で手合わせをしていた幸村と元親。
「あーあ、砂まみれ」
砂まみれ汗まみれで帰ってきた二人に苦笑しさっき畳んだばかりの着替えとタオルを手渡せば何を言いたいのか理解した二人は片方はバツの悪そうにし片方は少し恥ずかしげに笑ってから風呂場へ向かった。
うん。いい子いい子。
先程まで窓際で寝ていた慶次は鼾が煩いと元就に踏み潰され部屋に戻った。今頃布団で寝直しているのだろう。
小十郎さんは珍しくテレビに夢中かと思えば成る程。農家に密着取材をしたドキュメンタリー番組だからか。
猿飛は私が畳んだ洗濯物をそれぞれの部屋に片している。
最近オカンぶりに磨きがかかった気がする。
で、だ。
「政宗?」
一時間程前から和英辞典を手に一ページも進まずただ眺めている政宗に声を掛ければハッとしたように此方を向いた。
「なんだ?」
「や、ボーッとしてるからどうしたのかなって」
時々、だが最近政宗の様子がおかしい時がある。
ボーッとしたり、何か考え込んだり、此方を探るように見たり。
気付きながらもそのうち向こうから何か言ってくるだろう、と放置していたのだがちょっと気になる。
小十郎さんが何も言わないから大丈夫だとは思うけど。
「Ah…何でもねぇ」
まぁ予想通りの返答だ。
言いたくないのなら無理に聞かない。無理矢理聞き出した所で何が出来るかと聞かれたらそれまでだし。
政宗は未だに私に壁を作っている。
それは彼の過去を考えれば当たり前のことでそうでなくても会って一月足らずの人間に気を許せと言うのが無理な話なんだ。
警戒されてないだけ十分だろう。
「そ?何かあったら言いなね」
だから私もサラッと返す。無駄な干渉はせずに。
「あぁ」
それが今日の昼間の話だ。
夕飯後は入浴の時間。今日は元就が一番、元親と慶次がその次でそれから政宗と小十郎さん、幸村と猿飛という順番。
既に入浴を終えいつものように私が髪を乾かした元就は読書をし元親はドライヤー中にうとうとしてきたため慶次が自室に運んで就寝中だ。
幸村と猿飛は小十郎さん達と入れ替えに浴室へ向かい、小十郎さんはソファーに座る私の横に腰掛け間に置かれていたドライヤーを手にとった。
政宗の髪は未だに小十郎さんが乾かしている。
だからその行為は既に"いつものこと"と言ってもいいくらい当たり前のことなのだが。
政宗は私と小十郎さんを見比べ、そしておもむろに私の膝に座った。
「…っ」
私と小十郎さんは思わず顔を見合わせてしまった。
政宗が膝に座る、しかも自ら座るのは初めて。それどころか自ら触れてくるのさえ初めてで、流石に驚きを隠せない。
「(これは、乾かせってことだろうか)」
政宗の肩に掛かっていたタオルを手に取れば政宗が一瞬ビクッとする。そのタオルで髪をふき出すと次第に肩の力が抜け少しだけ私の方に体を預けてきた。
そのままある程度水分を拭き取りドライヤーでゆっくり乾かしていく。
少しだけくせのある柔らかい黒髪。…羨ましいくらい綺麗だ。
「はい、終了」
軽く肩を叩けばうつらうつらしていながらもゆるりと顔を上げ私を見上げる。
「Thank you mammy」
首に腕を回しぎゅっとしながら小声で言われた言葉に「your welcome」と返せばにっこり笑いそのまますぅ、と眠りに落ちた政宗。
「…まさか、政宗様が自分から歩み寄るとはな」
「びっくりしました」
「けど一番びっくりしたのはこの間の買い物の時に家族に間違えられたときだ」
あんなに嬉しそうな顔久々に見た、という小十郎さんの言葉に自然と頬が緩む。
「Good night, my cute son」
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