深夜、寝苦しさに目を覚ました。

見れば隣で寝ていた幸村が私の上に乗っかっていて思わず苦笑。


「(寝苦しさの原因はこれか)」


幸村を起こさないようにゆっくり体から下ろして起き上がる。
すっかり目が覚めてしまった。


ふと隣の部屋を見ればテーブルの周りに酔いつぶれている三人。
まさに死屍累々。

早めに布団に入って良かった。

そんな三人に布団を掛けテーブルの周りを軽く片付ける。


「(よくまぁこんなに…)」


呑んだもんだ、と呆れてしまう。

ビールから始まり酎ハイ焼酎カクテル等々沢山の酒の缶が転がっている。見覚えのない缶もあるから途中で自販機か売店に買いに行ったな?

三人のお小遣いはそれぞれに管理させているから文句は言わないが…買いすぎだろう。


呆れかえって小さな溜め息を吐き、空き缶を捨てに部屋を出る。

本当は持ち帰りたいけどこの量はちょっと…だからと言って仲居さん達に片付けてもらうのも申し訳ないし、ごめんなさい女将さん。

廊下のごみ箱に空き缶を捨てついでに何か温かいものでも飲もうと自販機の前に立つ。


「(何にしようかな)」


ココアなら眠くなるだろうか。
コーヒーとジュースが飲めないと買えるものが限られるから面倒だ。


「(ジュース飲めないのに酎ハイ好きって我ながら変な奴…)」


よし、ココアにしよう。
ピッとボタンを押せば直ぐにガタッと音がして商品が出てくる。

それを取り出しプルタブに指を掛けたとき




「…あきら」




不意に聞こえた声に動きが止まる。

顔を上げれば声の主




「…小十、郎さん」




たかだか半日やそこらまともに会話しなかっただけなのにまっすぐ此方を見る目を随分久しぶりに感じた。


「すみません、起こしちゃいましたか?」

「…いや、悪かったな。散らかしっぱなしで寝ちまって」

「いえいえ。珍しいですね。酔いつぶれるまで寝るなんて」


出来るだけいつものような感じを装って笑う。


「あきら」


小十郎さんの纏う空気が変わる。
張りつめるようなそれに何も言えず、顔を見ることさえ出来ずただ手に持つ缶を見つめた。


「悪かった」


はっきりとした口調で言う小十郎さん。

その謝罪が先程のものと違うことに対してだということは明確だった。


「変に避けたりして、不快な思いをさせたな」

「…そんなこと…」


違う。不快な思いをしたわけじゃない。
そう言いたいのに言葉が出ない。


「お前が何かしたとかじゃない。
ただ俺の中で感情の整理が付かなくお前に当たった」


本当に悪かった、と頭を下げる小十郎さんにどうしたらいいのかわからず戸惑う。


「頭を、上げてください」


私は謝られるようなこと、されてない。


「不快な思いとか、なってないですから」


ただ、私は


「素を見せてからだったから、呆れられたかなってちょっと戸惑っただけでしたから」


本当は嫌われたんじゃないかって怖くなって


だけど、嫌われるのを怖がってる自分に更に戸惑って


今までは嫌われてもよかった。
だって、この人達はいつかいなくなる人達だから。

だから好きなように接していたのに。



「不快な思いとかじゃなく少し寂しかっただけ、です。
だから頭を下げないで下さい」


小十郎さんの言葉が嘘じゃないのは彼の纏う空気でよくわかった。

だけど謝られると逆に嘘なんじゃないかと疑ってしまう。

―我ながら、ひねくれている。


「部屋に、戻りましょうか」

「…あぁ」

「わがままなのはわかってますけど…明日から、いつも通りに接してくれたら嬉しいです。
せめて、政宗達の前だけでも」


明日になったら全部元通り。

今日気付いた感情にはフタをしよう。

そう、決めたのに



「……それは無理だ」



小十郎さんの言葉に、胸がズキン、と痛んだ。


まるで鋭い刃物が刺さったかのように


やっぱり、嫌われたのだろうか。

それはそれでしょうがない。

しょうがないと、思うのに

鼻の奥がツンとした

「(泣くな)」


泣くな、自分。


「…そう、ですが」


声が震えないように気をつけながらそれだけ言う。


「あきら」


この数分で何回名前を呼ばれただろう。

そんな、全く関係ないことを考えていたら


「わっ」


急に手を掴まれ体が前に引っ張られる。


「こじゅうろう、さん…?」


気が付けばしっかり抱きしめられている体
背中と頭に感じる腕は小十郎さんのもので。


「…好きだ」


一言

ただそれだけ呟かれた言葉


ドクドクと普段より早い鼓動は私のものか、彼のものか。


「だからお前が素を見せるあいつらに嫉妬した。嫉妬した挙げ句お前に当たるなんてな…」


顔は見えないのに、小十郎さんが自嘲気味に笑ったのはわかった。

小十郎さんの言葉を理解するのに必死で頭が働かない。
ただ、今体を包む匂いにくらくらして、


「―返事は今はいらねぇ。ただ気付いて伝えたからには今までのようには接することは出来ねぇから覚悟しろ」


いつもよりも何倍も男らしい口調や顔で言って部屋に戻っていく小十郎さんの背中をポカンと見送る。



「ずるい……」



ずるい。

いつかは、いなくなるくせに
私を置いて消えちゃうくせに


気付かぬ内に人の中に入ってきて依存させてしまう、そんな人


「本当、ずるいよ…」


その場にしゃがみこみ、熱を持った顔を隠す。

手の中にあるココアはいつの間にかすっかり冷めていた。


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