元親と部屋に帰ったらやけににこにこした猿飛とその横で難しい顔をする小十郎さんという妙な光景が広がっていた。


「他の子達は?」

「旦那達はお風呂。毛利の旦那は散歩行ったよ」

「散歩?」


日輪でも浴びているのだろうか。


「あ、小十郎さん髪にゴミが」


小十郎さんの髪に糸くずの様な物を見つけ手を伸ばす


パシッ


瞬間、手を弾かれ動きが止まる


「あ…」


思わず口から出た言葉は意味をなさず、ただ頭の中では一つの警報が鳴り響いていた。


「元就、散歩に行ったんですよね。ちょっと遅いので様子を見に行ってきます」


気が付けば適当な理由を付けて部屋から出ていた。



そうだった、小十郎さんと気まずかったんだ。なんで忘れていたのだろう。


何か考え込んでいたからびっくりしたのかもしれない。
だけど




手、弾かれた。悲しい




思いのほか傷付いている自分が居て




これ以上は危ない




頭の中で警報が鳴り響く。




近付きすぎた




これ以上は、駄目だ。




だって、あの人は―――








宛もなくぶらぶらと旅館を歩く。

元就が行きそうな所と言えば何処だろうか。


「(元就が好きなもの…)」


甘いもの、おもち、日輪…


取りあえず庭にでも行こうか、と庭に足を踏み出してすぐに見つけた後ろ姿


「元就」


ビクッ


しゃがみこんだその後ろ姿に人物の名前を呼べばあからさまにビクつく背中。


「どうしたの?」


後ろからひょこっと覗き込めばその手元には一匹の…


「にゃー」


猫。


「わ、可愛い」


なんというか元就とのツーショットが。

いや、猫も可愛いのだけども。


「首輪付いてるね。飼い猫か」


首もとを撫でればゴロゴロと喉を鳴らし目を細める猫。


「どうしたの?その子」

「知らぬ。足元に寄ってきて追い払っても追い払っても寄ってくるのだ」

「あぁ、元就動物に懐かれやすいから」


今日判明した事実だ。


「優しい子だってわかるんだろうね」


元就の頭を撫で、それからまた猫と戯れる。


「…我にそのようなことを言ううつけは貴様位ぞ」


ぷいっとそっぽを向きながら言うその頬が赤いのは知っている。
素直じゃないのが可愛い。


「今度また元親と髪を切りに行く約束してるんだけど、その美容院でも猫を飼ってるんだ。凄く人懐っこい美人さん。
元就も一緒に行かない?」

「…ど、どうしてもと言うなら言ってやらんこともない」

「本当?じゃぁ約束ね」


そろそろ夕飯だから部屋に帰ろうか、と立ち上がる。

この猫は賢い様で私達が帰るのがわかったらしく「にー」と小さく鳴いて踵を返していった。

少し名残惜しそうな元就の手を引き歩き出す。


「温泉どうだった?」

「悪くない。また来てやってもよいぞ」

「本当?泊まってる間はいつでも入れるからまた明日の朝とか日の出を見ながら入るのもいいかもね」



最近、手を握っても少しこちらを睨むだけで何も言わなくなった

抱きしめるときの抵抗が本気じゃなくなった

僅かだけど大きな変化



「あー…、可愛いなぁ」



ギロリと睨まれたが怖くない。

本当、可愛い



「(離れたく、ないなぁ…)」



なんて、ね。




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