動物園を出て辿り着いた旅館はなかなか立派な所で、驚く猿飛達を引きずるようにし旅館に入る。
「お待ちしておりました。あらあら、随分美人さんに育っちゃって」
「ご無沙汰してます。女将さんこそ相変わらずお綺麗で」
昔から何度も来ている場所なのでいつものように女将さんに挨拶をし案内されるまま部屋に向かう。
「大人様四人の子供様四人だったわね。本当に一部屋でいいの?」
「十人用の大部屋でしょう?問題ないですよ」
女将さんが言いたいことはわかるがさらりと誤魔化しながら部屋に入る。
「夕食は七時でよかったですね?」
「はい。よろしくお願いします」
襖を閉めて去っていく女将さんを見送り、部屋の中へ足を進める。
「いい宿だねぇ」
「でしょ?叔父のお気に入りの宿なんだ」
窓の外には紅や黄色に染まった木々が広がり遠くには湖も見える。
「部屋に露天風呂もついているから安心でしょ?」
戦国時代、温泉と言えば露天風呂だろう。銭湯なんかもなかっただろうし、入浴マナーを教えるのは少々骨が折れるため部屋にお風呂が付いてるのは私にしても安心なんだ。
「流石に、私は違うお風呂行くけど…」
「当然であろう」
「あら、元就一緒に行く?」
それでもいいよ?と聞けば真っ赤な顔で思い切り否定されてしまった。つまらないの。
「ご飯までまだ時間あるから先にお風呂行こうか。
ここに浴衣置いておくからみんなで入るなり順番に入るなり好きにして?じゃ、行ってきます」
ポーチや着替え等を持って部屋から出る。
此処はお風呂も立派で色々な種類があるから楽しみなんだ。
逆上せやすいからゆっくりは出来ないけど目一杯癒されようと思う。
少しぬるめのお湯に浸かりふはぁ、と息を吐く。
ローションの様に滑り気があるのが特徴で美肌効果があるだとか。
平日だからか人は少なくほぼ貸し切り状態。のぼせにくい体質だったらもっとゆっくり出来たのに。
露天風呂も立派で景色は最高。あぁ、気持ちいい。
二十分程お風呂を堪能しもう一度体を流してから脱衣場に出る。
浴衣を着込み半乾きの髪をくくって化粧水や乳液を塗りたくり脱衣場を後にする。
「あきら!」
廊下を出たところで名前を呼ばれ立ち止まる。
「元親。どうしたの?」
「あのまっさぁじちぇあってのは俺でも出来るか?」
今日一番の輝きを見せる元親の表情にマッサージチェア?と首を傾げる。
元親が指差す方向を見れば四台ほどのマッサージチェアが置かれていて、あぁ、と頷く。
「大丈夫だよ。使ってみる?」
「いいのか!?」
「うん」
周りに人もいないから多少沢井でも大丈夫だろう、と承諾し(元親がはしゃぐのは目に見えているから)一番端に元親を座らせその横に自分も座りリモコンを片手に操作方法を教えながら使ってみる。
「うわっ」
最初は驚きの声をあげたものの直ぐに「こいつぁすげーな…」と呟きながら背もたれに体を預ける元親に笑みをこぼしつつ私もしっかりマッサージチェアを堪能した。
「向こう帰ったら作ってみっか…」
「それは難しいかもね…ま、やるだけやってみれば?国が傾かない程度にね」
「おう!」
にかっと笑う元親の髪をなで、部屋に向かう。
「髪、伸びたな」
「ん?あぁ、そうだねー。元親も大分伸びたしまた舞ちゃんの所行こうか」
また髪も染めなきゃなー。髪染めたの2ヶ月前?
…そうか、元親達が来てから4か月経つのか。
一年の三分の一を過ごした。
そりゃ、気も緩んでくる。
バリバリの敬語で過ごしてたあの頃が懐かしいくらいだ。
「ねぇ、元親」
「なんだ?」
「やっぱりなんでもない」
そうか?と私を見上げてた顔を真っ直ぐ前に戻す元親。
「(元の世界恋しい?なんて、愚問か)」
そんなの、恋しいに決まっているのに
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