私の肩に乗りキキッと鳴く夢吉の頭を撫でながら「もういなくなっちゃ駄目だよ」と諭す。
「ね、あきら」
「何?慶次」
「さっきからこっちを見てる兄さんがいるんだけど知り合い?」
慶次の言葉に「え?」と首を傾げ慶次が指した方向を見ると、
「あ、」
こっちに向かってひらひら…違うな、ぶんぶんと手を降ってる見覚えのある人物。
「あきらせんぱーい!」
ぱたぱたと駆け寄ってくるそいつ。
「文。久しぶりじゃん」
「ッス。やっぱり先輩だったんスね!さっきからそうかなーって見てんのに気付かねーんだもん」
「ごめんごめん。どうも本能的に振り返っちゃいけないような気配を察知して…」
「何スかそれ!どう意味ッスか!?」
むぅ、と拗ねたような顔をするのは伊藤文也。高校時代の後輩だ。
「つーか先輩卒業してから殆ど連絡くんねーし最近メールすら返信してくんねーしさぁ」
「おいこら敬語どこ行った」
「たまには他の先輩達見習って可愛い後輩構うとかしたらどうっスか!」
「馬鹿お前、なんで可愛い可愛い女の子達じゃなく馬鹿でかくて暑苦しいお前なんか構わなきゃいけないのさ。というかお前暫く会わない間に随分態度でかくなったな?」
口が悪いのはご愛嬌。これが素なんだ。
素を知らない小十郎さん達が後ろで驚いてるのがわかるが…後が怖いな…。
「だって…」
「ん?」
「だって、先輩が悪いんじゃないっスかー!」
いきなりそんなことを言い出す文也にきょとんとしてしまう。
どうでもいいが今年二十歳になろうっていう人間がこんなガキくさくていいのだろうか。
「オレの知らないとこで結婚して!子供産んで!なんなんスかもう!」
「なんなんスかはこっちの台詞だけど。結婚?出産?なんの話だよ。っていうか他の人の目がうざいから黙れ」
恐らく小十郎さんや幸村達とのやりとりを見られたのだろうが、勘違いにしては騒ぎすぎだ。
「いい?まず始めに結婚してません。子供も産んでません。考えてみろお前、ゆき…あの小さい方の子だってどう見ても五歳やそこらだろ。私今年21歳。高校卒業したの3年前。計算合わないだろ?」
「…本当だ」
「少し考えればわかるだろうが。小十郎さんと夫婦に見えたってのは置いといて、あの子等と親子に見えたのは嬉しいけど全部勘違い。旦那どころか彼氏も彼女もいません」
彼女はふつーに考えているわけないじゃないッスか。と呟く文也の頭を軽く叩き「わかったら他の連中に変なこと言うなよ」と念を押す。他の連中とは文也と私の共通の知り合いだ。
「構って欲しけりゃ連絡しろ。他の用事なかったら構ってやるから。ただし可愛い女の子は用意してね」
「先輩昔より変態くさいっス」
「黙れ。…ほら、連れいるんでしょ?待ってんじゃない?」
「あ!そうだった今楓先輩と来てんスよーやっべ、シメられる!
あ、また連絡するんでちゃんと返信してくださいよ!?後ろの方々も変な勘違いしてすんませんでした!じゃ!」
ぱたぱたと嵐のように去っていった文也を見送りはぁぁぁあ、と大きな溜め息を吐く。
あぁ…振り返りたくない…
なんて言ってられないので何事もなかったかのように「さ、縞馬の所行こうか!」なんて言いながら振り返れば戸惑いながらも四人は頷きいつものように幸村の手を握り歩き出す。まぁ、縞馬の場所まで辿り着けば幸村や政宗はそれに興奮しさっきのことを忘れたかのように私の手を掴みながら「なんで縞模様なんだ」とかいう鬼畜な質問をしてきたのでそれをスルーしながら「ほら、小さい子もいるよ」なんてはぐらかせば中身は大人な二人は空気を読んで追求しないでくれた。
良かった。弁丸とかだったら答えるまで聞いてくるよ。いや、弁丸は適当な回答で誤魔化せるから梵天丸とかの方が厄介か…なんて。
「(というか)」
ちらり、と斜め前に立つ小十郎さんを見上げて見る。
「(小十郎さんさっきから喋らないな…)」
これはあれか、やっぱりさっきのことが原因か。
…そうだろうな。カンガルー見てたときは普通だったし。
呆れられたか。もしくはどん引きされた?どちらにしても気まずいのには変わりはない。
「さ、そろそろ時間だから待ち合わせ場所行こうか」
迷子二人はちゃんと謝るんだよ?
そう、促して待ち合わせ場所に向かう。
元親が疲れきってませんように…
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