その場にいる全員が息を飲んだのがわかった。
「どういう事だ」
重苦しい空気にすぅ、と大きく息を吸い、口を開く。
「ここは、皆さんのいた世界ではありません」
それは既に説明したこと。
「皆さんは本当は、"ここにいちゃいけない"人間です」
本来なら存在してはいけない人達。
「皆さんが此処で人を殺めたるということは、まだ生きなくてはいけない人を殺める、ということで、事件を起こすということは無かった筈のことが発生してしまったということなんです」
それがちょっとしたことなら問題はない、らしい。けれど
「人が亡くなったり、生活が危ぶまれる程の損失は絶対にゆるされちゃいけないことらしくて」
もしそれを起こしてしまったら選択肢は二つ。
「ここの住民になるか、存在を消すか」
元々この世界の人間だったことにすれば罪を償わせることができる。
存在を消せば、事件自体を消せる。
らしい。
「全員、って言うのは連帯責任というわけではなく、こちらの人間になるにしろ存在が消えるにしろ皆さんの世界から人間…しかも、大きな力を持った人間が消えるということです。
しかも向こうの時間は止まっているから、突然に。
でもそれをすれば皆さんの世界が崩壊する」
「崩壊…」
そう呟いたのは誰だったか。
「バランス…均等?を取るにはそれ相応の代償が必要で」
「それが、我らということか」
「はい」
私もバランスがどうこうの基準はわからないけど、そういうことらしい。
「因みに私が皆さんを死なせた場合は私が消滅してしまうらしいのでお願いだから殺させないで下さい」
あ、誰かが死んだら皆さんも消えてしまうようなので気を付けて下さい。
「必須事項は以上ですかね…」
紙の端から端まで読み直し頷く。
と、そこで場の空気が固まったのに気付いた。
「あれ…?どうかしましたか?」
「いや…なんでもない」
何かを言いかけて途中で止める片倉に首を傾げたが気にしないことにする。
それよりさっきから幼児化組が静かだな…とそちらを見れば、
「…っ」
真面目に話を聞く四人の後ろで寄り添うように眠る三人。と、夢吉。
「ありゃー」
「政宗様…!」
「可愛いねー」
「…ふん」
可愛い…!
難しい話に子供の体がついて行かなかったのだろうか。
それすら可愛い。
毛利元就が起きているのは元々知能が高いからか。
「何かかけるもの持ってきます」
立ち上がり隣の部屋から大きいブランケットを持ってきて三人に掛ける。
もぞもぞとブランケットに潜り込んでいく姿が可愛い。
可愛いって何回言ったかわかんないけどとにかく可愛いんだ。
さて。
「じゃぁ、三人が寝ている間に家の中の説明をしますね。
お三方には起きた後皆さんから説明してあげて下さい。多分、その方がいいと思うので」
取り急ぎ説明しなくちゃいけないのはキッチンとトイレと…家電もか。お風呂はまだいいし…あぁ、面倒くさい。
「こっちが台所。
火は使いません。
ここを押せば赤く光るのでこれが点けば火がついてるのと同じ状況になります」
へー…、ほぅ、凄いね!、どういう仕組みだ、等それぞれの反応に適当に返しながら次に進む。
IHコンロは危なくなくていいけど説明が面倒だ。
「水はこれを上に上げれば出ます。
お湯にしたいときはこの上の絡繰りの丸い所を押して、ジジジジジ、と音がすれば湯が沸かされ温かいお湯が出ます」
「井戸までいかなくていいんだ…」
「便利だな」
保護者組の食いつきがいいのは何故だろう。
「なぁ、この箱は?」
「これは冷蔵庫って言って…ちょっとそこのへこんでる所に手をかけて引いてみてください」
「うわ!冷気が!」
「この中に食材を入れておくと自動で冷やしてくれて物が腐らないんです。
その一番大きい部屋が冷蔵室、二段目の左の部屋が製氷室…氷が入っています。右の部屋がお魚や肉を保存する場所、三段目が冷凍庫と言って食品を凍らせておく場所。一番下が野菜室。暑さに弱い野菜などを入れておきます」
氷は高級品、という時代の人間だからか大量の氷に感動したり肉に顔を青くしたりする四人についつい笑みが零れそうになる。
いや、営業用の笑顔は標準装備してはいるけども。
「これは電子レンジ。食べ物を温める時に使います。
これはオーブン。食べ物を焼くときに使います。
この二つの使い方はその都度聞いてください。
あと、調味料はここで、まな板と包丁はここ。食器やなんかを洗うときはこのスポンジにこっちの洗剤を少し垂らして数回揉むとこのように泡が出てきますからこれで洗って下さい。
食器はあそこ。一応人数分揃えてあります」
それから炊飯器の説明をして次に行く。
「厠はここ。他にもこの真上にもあります。
ここに扉の方を向いて座って用を足して、用を足したらここを手前に引けば水が流れます。
伊達さんや長曾我部さん…はどうかな?真田さんは多分便器…って言うのですが、便器が大きいと思うのでこれを上に設置して使って下さい」
強制的にバイトが決まりまずしたことは日用品の買い出しだった。
武将の内数人が幼児化するのは聞いていたし自称神様が用意した武将達の衣服を整理したら大体の身長がわかったので子供用便器や踏み台等も用意したのだ。
「湯殿はまた追々説明します。
後は絡繰りの説明、ですが…取りあえず一旦最初の部屋に戻りましょうか」
ぞろぞろと四人を引き連れ客間に戻ればちょうど三人(+一匹)が目を覚ました所だった。
「む…?」
「sorry、寝ちまったみてぇだな」
「ふぁ…」
「キキッ」
コテン、と首を傾げる真田幸村とぐしゃ、と髪を掴む伊達政宗、欠伸をする長曾我部元親にそれを真似るように欠伸をする夢吉。最初と最後が異様に可愛い。
…あ、そろそろご飯食べたいな
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