腕の中で何かが動く感覚に意識が浮上する。

腕の中…何かを抱いて寝たっけ?あぁ、そうだ、昨日はみんなで雑魚寝を…じゃぁ、腕の中にいるのは、


ゆっくりと結論を導き出し静かに目を開ければ私にしっかり抱きかかえられる頭と真っ赤に染まった僅かに見える耳。

政宗か、幸村か。

そう推測を立て目をあけだがどうやら腕の中にいるのは幸村らしかった。

だがしかし少し顔を上げれば政宗が見える。

私が向いているのは昨晩眠りについたのと逆方向。

幸村を胸に抱いたまま壁に掛かった時計を見れば早朝四時。

みんなが起きるにはちょっと早い時間帯だ。

どうやら私が幸村を抱いたまま寝返りを打ち、その拍子に幸村が起きてしまったようだ。

未だに私の腕の中で固まっている幸村の頭に顔を近づかせ、「ゆき」と名前を呼べば幸村はビクッと一瞬震えた。


「いい、大声出しちゃ駄目だよ」


小声で、幸村にだけ聞こえるようにそう告げ、コクコクと必死に頷く幸村の抱えたままゆっくり布団から出てみんなを起こさないように客間を出る。

猿飛はやっぱり布団にはいなくて、リビングからいい香りがしている辺り、もう朝食の準備を始めている様だった。

そうしてリビングへ入ったところで幸村に大声を出さないように念を押して静かに幸村を下ろした。


「〜〜〜っ!」


幸村は約束通り声を出さぬまま(というか両手でしっかり口を押さえて)ズサーッと思い切り後ずさった。


「あはは、顔真っ赤」


壁にゴツンと頭を打つところまで後ずさった幸村にけらけら笑えば猿飛に「あんまからかわないであげて」と諭された。
残念。


「ゆき、昨日のこと覚えてる?」

「う、お、思い出したでござる…」


真っ赤な顔のままカーテンに隠れてそう言う幸村が可愛くて抱きつきたくなったが流石にやめておいた。


「昨日はあんなに甘えてくれたのに」

「な…!あ、あれは幼き頃のこと故、仕方なきことであって…某では…いや、某の意思ではあったのですが、しかし…」


あー…、駄目だ。可愛い。


「ゆき、そろそろ顔見せてよ」
ゆっくりとカーテンに近づき隠れている幸村に声をかける。


「ゆきに会うの、四日振りなんだから」


三日間実家に戻っていた。
帰ったのは幸村達が寝た後で、昨日は幸村じゃなく弁丸だったから。

幸村は小さく息をのみ、そろそろとカーテンから現れた。


「ただいま、ゆき」

「おかえりなさいでござる!」


まだ少し赤い顔で満面の笑みを浮かべる幸村をぎゅっとすれば一瞬体を強ばらせたもののすぐに恥ずかしそうに片口に顔を埋めた。

この子は私を萌えさせてどうしたいんだろうか。


「あきらちゃん顔だらしないよ」

「あらやだ失礼」


自覚はあったけどね。

幸村を解放しソファーに沈む。
どうせ手伝おうとしたところで猿飛は手伝わせてはくれない。
幸村は竹刀を持って庭へ飛び出していったし、小十郎さんはおそらく畑だろう。

わざわざ客間に戻って二度寝するのもな…なんて考えたところでそう言えば携帯を枕元に置きっぱなしだということに気が付き取りに行くために立ち上がった。


そっと扉を開ければ慶次以外の三人は起きていたようで布団の上に座って何か話していた。


「おはよう」


そんな三人に声をかければ三人は一斉に此方を見、そして気まずそうな顔をする。


「三人とも昨日は可愛かったよ」


そんな反応されたらからかうしかないじゃないか、なんて自分の中のS心が刺激されついついそんな言葉を発してしまう。


「な…!」

「…shit!」

「…戯れ言を」


昨日の三人も可愛かったけどこっちもこっちで可愛いもんだ。


「政宗、昨日のこと覚えてる?」

「…あぁ。思い出したぜ」


眉を下げ困ったように口の端を上げる政宗の頭を撫で、元親と元就を見る。


「二人は…元親はともかく元就は確実に、私のこと覚えてたでしょ」


ずっと不思議だった。
一番警戒心が強そうな元就がなんで一番最初に私を信じようとしたのか。
元親だって、一度たりとも私の出した物を警戒したことはなかった。

元親に関してはそれが性分なのかもしれないとも思ったが。


「そうなのか」

「あぁ。ただ俺の場合ははっきりと覚えてたわけじゃねぇ。
髪型と声と言われた言葉をぼんやり覚えてた程度だったが…やっぱりそうだったんだな!」


にかっと笑う元親の頭を軽く撫でる。


「毛利も覚えてたのかよ」

「…ふん。我を貴様と同じにするな。はっきり覚えてたに決まっておろう」

「やっぱりな。お前が最初にあきらに世話になるって言ったときそんな気はしてたぜ」


幼い頃のたった一日限りの経験を二人は覚えていたと言う。


「夢かとも思ったが…あの頃は松寿丸っつー思い出を共有する相手もいたしな。
何より、言われた言葉が嬉しすぎて忘れられなかった。
…ま、やっと礼を言えるわけだ。ありがとな。あの頃の俺はお前の言葉に励まされた」


胡座をかいたまま頭を下げるその格好が見た目と合ってなくて妙に笑えた。


「礼を言われることはしてないけど、どういたしまして。
随分男前に育ってくれたみたいで嬉しいよ」


あんな可愛かった弥三郎がこんな男前になると誰が思ったか。


「政宗も、元就もね。いい方向に成長してくれて嬉しい」


三人まとめてぎゅぅっと抱きしめ「そろそろご飯だから起きようか」と告げる。
リビングへ向かう三人を見送り、未だ鼾をかいている慶次の鼻をきゅっと摘んだ。


「いつまで狸寝入りしてるの?」

「バレたか」


パッと目を開け楽しそうに笑う慶次は多分最初から起きていた。
起きてるのにわざわざ鼾をかいて狸寝入りしている慶次に夢吉が不思議そうな顔してたし。「おはよう慶次。起きにくかった?」

「おはよう、あきら。少しね」


夢吉の頭を撫でた後ついでに慶次の頭を撫で、敷きっぱなしの布団を畳む。

リビングからは「ご飯だよー!」という猿飛の言葉が聞こえた。



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リクエスト参考
・幼児化組が中身まで幼児化
・みんなで雑魚寝



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