梵天丸と弁丸が慶次の尻尾(髪)で遊んでいる。
松寿丸は日光浴をし、弥三郎は梵天丸を取られた小十郎さんと畑へ行った。
弁丸を取られた猿飛はと言うとたまに弁丸を諫めながら夕飯の準備をしていて、私はその手伝いをしている。
「いやー、あきらちゃんがいてくれて助かったよ」
へらっと笑う猿飛は慣れた手つきできゅうりを刻んでいる。
彼は本当に忍なのだろうか。どうでもいいけど。
「私も猿飛さんが居てくれてよかったですよ。というか三人が大きいままでよかったです」
「それは同感」
あ、でも小さいあきらちゃんも見てみたかったかも、なんて言われたから今度神様に猿飛さんの体だけ小さくするように頼んでみます、と言ったら勘弁してよー、と本気で頼み込まれたのでやめておこうと思う。
「にしても、…ゆきは小さくても大きくてもあまり変わらないですね…」
なんというか、無邪気さとか。
「あれでも一応成長したんだよ?…体小さくなってからどんどん退化しただけで」
はぁ…、と溜め息をついた猿飛に軽く同情を覚えた。
というか退化って。
「昔は女の人平気だったんですね」
「ううん。苦手だったよ。
あきらが平気なのは大丈夫だって本能が覚えてるからじゃない?」
成る程。
確かにあの自称神がそんなようなことを言っていたわ。梵天丸も。
「普段もあんなに甘えてくれたら可愛いのにな」
初なのも可愛いけどさ。
からかいがいもあるし?
「いや、旦那あれでも十七歳だからね?」
「そうなんですけど…十七歳にしては初ですよね」
「本当、どうにかならないかな、あれ」
私に言われても。
「でも、梵天丸のにぱっていう笑顔とか弥三郎のはにかむような微笑みとか松寿丸の隠してるんだけど隠しきれてない口元の笑みとか可愛いじゃないですか」
「あきらちゃんちょっと危ない人みたいだよ」
「母性本能ですよ」
子供はそんなに好きじゃなかったけど実際相手にしてみれば可愛いもんだ。…一日くらいなら。
「あきらちゃん、それなんて料理?てれびでみたことあるけど」
「オムライスですよ。
今日は子供が多いですから」
いつもは基本的に小十郎さんと猿飛が料理をしてくれるから食卓に並ぶのは和食。
みんなが気に入ったカレー以外の洋食を作るのは随分久しぶりなような気がする。
猿飛が「またそんなに卵使って…」とぶつぶつ言っているが彼は未だに向こうでの感覚が抜けないらしい。
「梵ー弁丸ー、小十郎さん達呼んできて。ご飯だよーって」
わかった!と慶次に窓を開けてもらいサンダルを履いて畑へ向かう二人を見送り和室スペースのテーブルにオムライスとスプーン、それと猿飛特製のサラダと味噌汁(食べ合わせは気にしちゃいけない)を並べる。
松寿丸と、庭から帰ってきた四人を座布団の上に座らせ手を合わせていただきます。
(ここで不思議だったのは四人が何故かいただきますは覚えていたことだ)
「美味しいでござる!」
「美味しいな」
「…美味しいです」
「…ふん」
若干二名いつもと変わらぬ反応だがどうやら全員お気に召したようでよかった。
「あ、旦那口の周り真っ赤!」
「ぬ」
「梵天丸様まで…」
「んー」
従者二人が甲斐甲斐しく(やっぱり一人はいつもと変わらないが)主人の面倒を見てくれているのでとくに手を出すこともなくいつも通りに時間は進む。
料理を平らげたら次は風呂。
こちらはこっちに来たばかりのときのように弁丸と佐助、梵天丸と小十郎さん、弥三郎、松寿丸と慶次に別れ(弥三郎か松寿丸どちらか一緒に入るかと言ったら二人に凄い勢いで拒否されたので大人しく夢吉と入ることになった)入浴することにした。
使い方わからないし何より危ないからね。
で、今は弁丸達が入浴中だ。
私は膝に既に入浴を終えた梵天丸を乗せ同じく風呂上がりの小十郎さんの隣に腰掛けながら今日一日で溜まったメールの返信に勤しんでいた。
こういう日に限ってメールが多いから嫌になる。
ある程度の返信を終えパタンと携帯を閉じれば小十郎さんと話していた梵天丸が待ってましたとばかりに私を仰いだ。
「終わったのか!?」
「うん。小十郎さんとなに話してたの?」
ドライヤーで乾かしたばかりの柔らかい髪を撫でながら話し掛ける。
そんな私達を微笑ましそうに見る小十郎さんに、なんか…なんというかこう…
「親子みたい」
頭に浮かんだ言葉を代弁したのは風呂上がりの猿飛だった。
部屋の入り口でにやにやしながらこちらを見る様が異様に苛ついた。
「お二人も親子みたいですよ?本当、日に日に母親ぶりが板について…」
なんて嫌みを返しながらもあきら殿!と駆け寄ってきた弁丸の頭を撫でる。
ひくり、と口をひきつらせた猿飛なんか見ない振りだ。
そういえば前にも同じ事を言われた気がする。
あの時は膝の上にいたのは元就で、言ったのは政宗だった。
政宗と小十郎さんと三人で出掛ければ親子に間違えられることも少なくないし、小十郎さんと夫婦に間違われたこともあるけども。
実は猿飛と幸村と出掛けたときにも間違われたことがある。
「(でも猿飛と二人の時は夫婦にも恋人にも間違われたこと無い)」
慶次とは兄妹に間違われるし、その違いは何かって考えたら、やっぱり。
「(やばい、かな)」
大丈夫。まだ、大丈夫だ。
(まだ誤魔化せる)(ゲームオーバーは)(いつだ)
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