翌朝気が付けば私は自室のベットに横たわっていた。
それはつまり昨晩あのまま眠りについてしまったということで、私は思わず顔を右手で覆った。
「やっちゃった…」
人前で泣くだけでも死にたくなるくらい恥ずかしいのにその上泣き疲れて眠るなんて。
「あきらちゃん!」
バン!っと部屋のドアが開きびっくりしながら見れば珍しく焦ったような猿飛がいた。
「どうしたんですか?」
「だ、旦那達が!」
猿飛に引っ張られリビングに連れてこられた私はその光景に唖然とした。
「さすけ…!」
半泣きで猿飛に抱きつく幸村。
「…」
厳しい表情で小十郎さんの後ろに隠れる政宗。
「しょうじゅ…」
おどおどとした様子で元就の服の裾を掴む元親。
「おどおどするでないわ」
一見どこも変わってないように見える元就。
「いやー、まいったねー」
そんな子供達に苦笑する慶次。
…こ、これは…
「旦那達の中身が外見通りの年齢に戻っちゃったみたい」
猿飛の言葉に私は黙って携帯を掴んだ。
『もしもしー?』
「…説明しろ?」
電話越しに聞こえた呑気な声に思わず敬語も忘れ問い掛ける。
電話の相手は勿論あの自称神だ。
『あー…手違い、つーかさ』
「また、手違いですか」
『毛利元就と長曾我部元親を元の年齢に戻す予定だったんだが機械が故障して』
機械でやってんのか…!
『まぁ今日一日あれば明日の朝には元に戻るから』
「…」
この沈黙は本当かよ…というものだ。
『それにほら、戻ったのは精神年齢だけだから一応お前らが安全だとかそういう知識は残ってるし』
「…のわりに政宗に警戒されましたが」
『頭でわかってても心がついてかないんだろ』
「…」
こう言うとフェアじゃないかもしれないが、政宗の過去は一通り"知識としてある"。
右目のこととか母親との確執とか…歴史は好きな方だったから。
ただそれはあくまで知識としてあるだけで彼から聞いたものではないし必ずしも過去が同じとは限らない。
だけどあの様子は…何かあるのは確実だ。
『頼むよ。出来るだけ早く元に戻すから』
「…」
『…給料あげさせていただきます』
「了解です。じゃ、きりますねー」
実を言うと彼(彼女?)との電話はこれが二回目じゃない。
だからか最近奴の扱いが酷くなった気がしなくもないが…気のせいということにしよう。
パタン、と携帯を閉じため息を一つ吐く。
「さて、どうしようかねー」
携帯をポケットにしまいリビングへ戻ると先程から状況は変わらず敢えて違いを言うなら幸村を背中にぶら下げた猿飛が朝食をテーブルに運んでいたくらいだろう。
「慶次ー」
「お、おはようあきら。電話はすんだのかい?」
「うん。なんかの手違いで明日には元に戻るだろうってさ」
「…ということは今日一日はこのままということか」
渋い顔をしたのは小十郎さんだ。
その背中には相変わらず政宗が隠れている。
私がなんと気なしに政宗に近づけば政宗は瞳を揺らせ小さく後ずさった。
追いかける気も怯えさせる気もないのでその場にしゃがみ込み政宗に視線を合わせた。
「政宗」
政宗はまた一歩後ずさった。
「より、梵天丸って呼んだ方がいいかな?」
ぴくり、
肩揺れる。
「ここには誰も君を傷付ける人間はいない。
ゆっくりでいい。この言葉が信じられるようになったら小十郎さんの背中から出てきな」
無理に出て来なくていい。
そんなことをしても意味はない。
自分が信じられる時に出てくればそれでいい。
「…ころさ、ない?」
か細い声が聞こえた。
「うん。殺さない」
「うそだ」
「そう思うならそれでいいよ」
「……知ってる。あんたはだいじょうぶって。あんたのこと知らないのに、知ってる。
けど、怖い」
梵天丸様…と、小十郎さんが呟いた。
この人は自分を傷付けない。
けど怖い
もし裏切られたら?
傷付けられたら?
…昔の自分を見ているようだ。
「じゃぁいっぱい警戒して見てな?私を観察して大丈夫そうだったら歩み寄ればいい。
生憎私は自分が君の信頼に値するかはわからないから」
人を信じない人間が信頼されるなんて、あるはずないのに。
だけど彼は信じようとしてくれている。
「自分が信じようとして近寄らなければ意味はない。
狡いかもしれないけど君の判断にまかせるよ」
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