それは法事が無事終わり一息吐いている時だった。


「あんた何の仕事してんの?」


そんな母の言葉に内心呆れを覚える。

仕事が決まった時に説明した筈なのに、な。

いかに私に興味がないかが伺える。
まぁ、どうでもいいけど。


「家政婦みたいな」


実際はベビーシッターの方が近いかも知れないけど。
なんて考えてつい笑みがこぼれた。


「(ある意味赤ん坊みたいなもんだったからな…)」


現代のことは全く知らない。常識も、生活能力も、全部。
そんな赤ん坊みたいな人達だった。


「ちゃんと働けてるの?」

「働けてるから2ヶ月弱続いてるんじゃない」


実際はあんまり働いてない。
食事番は猿飛と小十郎さんに取られたし洗濯や掃除はしてるけどそれだけなような気がする。
今度自称神辺りに聞いてみようか。


「どうだか。あきらだしねー」

「うっせ」


茶々を入れる姉に悪態を吐きながらお茶を一口口に含む。


「あきらがちゃんと働けてるわけないじゃん」

「だよねー」

「お姉ちゃんだし」


母はともかく、姉と妹の言葉には悪意がない。
"あきらはそういう存在"ということが植え付けられてるからだ。

何をしても駄目な私
何をしても笑顔な私

本当、馬鹿らしい。


せっかくこの家を出て解放されたのに、この家に来るとやっぱり私は逃げられなくなる。


「(帰りたいな…)」


そう考えてすっかりあの家が私の帰る場所になっていると気付いて内心苦笑する。


大丈夫。まだ笑える。
あと一日だ。大丈夫。


「あきらー」


名前を呼ばれ振り返れば帰る準備を終えた武兄とそのお母さんが立っていた。


「何ー?」


聞きながら二人の元へ向かえば二人の後ろには車をくれた例の叔父もいて更に首を傾げる。


「また今度店来いよ。旦那連れて」

「旦那じゃねぇっつーの」

「こら、女の子がそんな口きかないの」


おばさんに咎められ「はい」と素直に聞き入れる。
武兄のお母さんだけど、この人は苦手だ。
おばさんは素直に頷いた私に満足気に頷き先に車に行っている、と言いいなくなった。


「あきら、お前この家出てるんだってな」

「うん。2ヶ月くらい前から住み込みの仕事してる」

「そうか」


叔父はごそごそと鞄を漁り中から封筒を取り出した。


「小遣いだ。何あったら使え」

「え、いいよそんな…」


小遣いというには厚みがありすぎる封筒にびっくりした。
こんなの受け取れない。


「いいから貰っとけ」


一言、それだけだったけれど私はそれを拒否することは出来なかった。
叔父は、多分私の闇に気付いている。
だからこそこうして不器用ながらに助けようとしてくれている。


「…じゃぁ、ありがたく貰っておくね」

「あぁ。中に旅行券も入っている。
よかったら使いなさい」

「ありがとう、叔父さん」


叔父さんは東北で会社を経営しているから、伝手も多い。
多分、この旅行券もそこから手に入れたんだろう。

私はこの寡黙で不器用な叔父さんが親戚で一番好きだった。

けれど


「私も長くない。生きている間に出来ることはなんでもしてやりたいと思うくらいにはお前の事を可愛く思っている」

「叔父、さん」


叔父さんは心臓を患っていて、余命は一年ないと聞いた。
病院に入院すればもっと保つのに、叔父さんは死ぬのは会社の社長室の椅子の上だ、と言い張りそれをしない。

それが辛くて、けれど叔父さんらしすぎて少しだけ笑えた。


「俺も圭子もだぞー」

「いいよ、タケには期待してない」

「なんだとー!?」


多分、この人達のおかげで私はまだ生きているのだろう。
狂っても、壊れても、まだ生にしがみつけているのは、きっと。



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