くしゃり、と先日切ったばかりの髪を握りはぁ、と溜め息。


「どうしようか」


憂鬱。
今の気分を表すなら正にその一言に尽きる。


「どうしたの?」

「…慶次」


たまたま部屋の前を通った慶次がひょこっとドアから顔を出した。


「なんか悩み事かい?」

「悩み事、って程じゃないんだけどねー」


うん。別に悩み事じゃないんだよ。憂鬱なだけで。

話聞くよーなんて言ってくれる慶次にありがとう、と返し自分の横に座るように腰掛けているベットをぽふぽふ(実際はばんばん)叩いた。


「で、どうしたの?」

「んー…親戚の法事に行かなきゃいけなくて、それが憂鬱だなーって」


お祖母ちゃんの三回忌。
お祖母ちゃん子だった私はお祖母ちゃんが亡くなった時呆然として涙も出ないくらいただひたすら事実が受け止められなくて、お骨を見たときにやっと涙を流せたくらい、悲しかった。
だから法事自体にどうこうはない。むしろ行きたいと思う。
けれど


「会いたくない人達がいてさ」


それが憂鬱。
法事に行ったら絶対会わなくちゃいけないから。
ただそれだけ。


「ま、しょうがないんだけどね」


だからと言って行かないわけにはいかないし準備を含めても三日やそこらだ。我慢出来ない程じゃない。だから大丈夫、と笑う。


「あきらちゃんは何でその人達が嫌いなんだい?」


問い掛ける慶次にうーん、と唸る。


「何で、かぁー」


詳しいことは言えないし、本当のことも言いにくい。
私があの人達を嫌う理由なんて、言えたもんじゃないから。


「理由は上手く言えないけどさ、なんか全部が駄目なんだよね。
嫌いって言うか、嫌悪の方が近いかな?」


だから端的に、曖昧に、答える。
嫌悪。あの人達に対する態度にこれ以外のものはない。


「って、ごめん。暗い話した」


心配気に私の頬を撫でる夢吉の頭を撫でながら言う。
慶次は明るくて穏やかで、でも闇を持った人間の匂いがするからつい話したくなってしまう。

猿飛みたいな同族意識ではなく、小十郎さんみたいな絶対的な安心感じゃない、何かが慶次にたいしてあるんだ。


「あきらちゃん」


名前を呼ばれると同時に、肩を引かれ暖かい何かに包まれる。
それが慶次に抱かれてると気付くのに時間は掛からなかった。


「大丈夫だよ」


ぽん、ぽん、とまるで赤子をあやすように背中を優しく叩かれる。
私がよく元就や幸村にするように。


「俺たちはここで待ってるから」


だから、安心して行ってきな。辛かったらすぐ帰ってくればいい、と優しく声が囁く。
あぁ、駄目だ


「なんで、甘やかすかなぁ…」


今まで逃げ場なんてなかった。
だから、全部抱えて、
なのに、慶次は逃てくればいいと言ってくれた。
そんなの初めてで、どうしたらいいかわからない。


「あきらちゃんがいつも俺たちを甘やかすからお返しさ」

「甘やかしてなんか、」


ない、とは言えなかった。
甘やかしてる自覚は多少、ある。


「それに男は甘やかしてなんぼ、ってね!」


その明るさに救われてる、と慶次は知っているだろうか。
トリップしてきて最初に気を許してくれたのは慶次だった。


「じゃぁ、逃げ帰ってきたらちゃんと受け入れてね」

「勿論!」

「あー…甘やかされるなんて久しぶりだから、照れる」


圭子さんや、舞ちゃんや武兄は気を許している相手だけど甘えにくい。
否、甘えるけどこういう甘え方は出来ないから。


「暫くこのままでいるかい?」

「ん…」


このまま、というのは慶次に抱かれたまま、ということで。


「どうせだから慶次の胸板堪能してる」


慶次の背中に手を回しぎゅぅっと抱きつく。
あー…、落ち着く。
甘さなんて欠片もない。


「普段甘えない子が甘えるっていいねぇ」


変態みたいだよ、という台詞は口に出さず飲み込んでおいた。
さっきの自分の台詞を思い返すとどっちの方が変態くさいかなんて聞くまでもないから。



それから暫く慶次の胸板を堪能しゆっくりと体を離した。


「慶次って同い歳なのにお兄ちゃんみたい」

「本当かい?こんな妹なら大歓迎だねー」

「キキ!」


けらけらと笑い合い立ち上がる。


「そろそろ夕飯かな」

「今日は煮魚だって言ってたよ」

「やった」


階下からいい匂いが漂ってきて空腹を誘う。
猿飛達の料理は日に日にクオリティが上がり悔しいぐらいに美味しくなっている。


「あ、慶次」

「なんだい?」

「ちゃん呼びいらない。呼び捨てにしてよ」


あきらちゃん、と呼ばれるとむずむずする。
年下や年上に呼ばれるのはいいんだけど。


「了解。じゃぁ俺からも。
簡単に部屋に男を入れちゃいけないよ?しかも寝具に腰掛けさせたら襲って下さいってなもんだよ」


猿飛さんみたい、と笑えば「それはちょっとなぁ、」とのこと。どうやら嫌らしい。そりゃそうか。

二人並んで階段を降りてリビングへ向かいちょうど全員揃ってたので口を開いた。


「明後日から法事で三日間家空けるから」


猿飛と小十郎さんに急すぎると怒られ慶次に苦笑された。



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