いつの間にか初夏だった季節は夏真っ盛りとなり小十郎さんの畑の作物がどんどん収穫される季節になった。
片倉農場(政宗命名)の野菜はどれも美味しくてトマトやピーマンなんかは本当に初めて作ったのかと疑うくらいの出来だった。
気が付けば七人が来てから2ヶ月が経っていた。
「髪切ろうかなぁ…」
リビングで雑誌を読みながらふと思う。
昔はずっとショートだったし…なんとなく切るのが面倒で伸ばしっぱなしにしてそのままだっただけだから背中まである髪はボサボサだし、何より暑い。
そういえば久しく髪も染めてない。
「髪切んのか?」
「ん。暑いからねー」
膝の上には政宗。
ソファーに座った途端にそれが当たり前かのように膝に座って来たのだ。
「俺もちょっと切りてぇ」
そう言ったのは隣に座っていた元親。
確かに長めなその髪は見てるだけ暑そうだ。
「じゃぁちょっと電話してくる。空いてるようなら今日切りに行こうか」
ということで久しぶりの外出決定だ。
(決して引きこもりではない。多分)
「あきらちゃん!久しぶりね」
「久しぶり、舞ちゃん」
元親を連れて向かったのは小さい頃からお世話になっている美容室。
母方の遠い親戚だとかで毎回安くカットしてもらえて腕も確かだから未だに毎回ここに来てしまう。
舞ちゃんは店長であるおばさんの娘で年は私の五つ上。
昔はよく舞ちゃんのおさがりの服なんかをもらったものだ。
「あ、そっちが元親君ね?
やだ、可愛いじゃない!本当に男の子?」
「可愛いでしょ?正真正銘の男の子だけど」
元親は私の趣味でネクタイがプリントされてる半袖シャツにハーフ丈のボトムを履いている。
なんていうか、外国の子供みたいな感じだ。
「今日はどんな感じに?」
「ばっさり切ってカラーリングもしたいんだけどなんかいい感じのある?」
「そうねぇ…」
この色は?と舞ちゃんは色見本の板を出しながら聞いてくる。
「それよりこっちの方が似合うんじゃねぇか?」
「あ、いいわね。こっちもいい感じじゃない?髪型はこんな感じで…」
「こんな感じもどうだ?」
…まぁ、生き生きするのはいいんだけどさ。
本人ほったらかしで盛り上がるのはどうなの二人とも。
そして元親本当にノリノリだな…
あーあ、どうなることやら。
「いっそ金髪は?」
「それはやだ」
そんな残念な顔されても。
それが二時間前の話。
「うわ…」
どんな仕上がりになるか知らされないままカットとカラーリングを終え何故か化粧までされ更に服やなんか弄られ鏡を見ればまるで別人みたい!なんて少女漫画みたいな展開ではないが今までと全く違うイメージの私が出来上がっていた。
髪型は長めのボブで髪色は明るめブラウン。
そこまでは確かに予想の範囲内だったけれど。
「甘々…」
今日はこの前小十郎さんが選んでくれた白のマキシワンピを着ていたから確かに服装は甘めだったけど半袖パーカーは七分のカーディガンに変えられ頭には白いカチュームを付けられた。
化粧もいつもしない甘めメイクでまさに甘々。
「いやー、元親君がセンスよくてつい張り切っちゃったわ」
「舞もなかなかだったぜ?」
いつの間にそんな仲良くなったんだこの二人。
カーディガンやカチュームは舞ちゃんのおさがりだけどどうやら服のチョイスは元親の悪ノリによって決められたらしい。
「にしても意外に似合うわねぇ、そういう格好。
背は高いけどスポーツとかしてなかったから肩幅ないし胸はあるしもとがたれ目だし…普段あんな格好ばかりしてるから想像つかなかったけど勿体ないわ」
「中身みればわかるでしょ?キャラじゃないんだよ。
それにいつもみたいな格好の方が好みだしね。
このワンピースだって一緒に買い物した連れが薦めてくれなきゃ買わなかったし」
甘めな服装とかむずむずしちゃってダメなんだよね。
小十郎さんがいなかったら確実に買わなかったわ。
「ま、その服あげるわ。
ついでにそこの袋全部持って行ってよ。私の若い頃の服だけどあんたにはちょうどいいくらいだし?」
「いつもありがとう。今度来るとき忘れなかったらおすすめの紅茶持ってくるね」
お金を払い舞ちゃんの服が詰まった袋を元親と一つずつ持ち店を出た。
元親と二人してカットしてもらいカラーリング、トリートメントまでして一万円は安い。安すぎる。
ありがとう舞ちゃん。
「ね、このまま帰るのやだ」
「反応が楽しみだな!」
だな!じゃないよ元親さん。憂鬱。
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