「あーらら、何してるのあきらちゃん」


目を覚ましたのはそんな声がきっかけだった。
まだ覚醒しない頭のまま目を開ければ腕の中には気持ちよさそうに眠る幸村。
幸村を起こさないようにゆっくり体を起こせば足下には政宗、ソファーの下では元親と元就が寄り添うように、そして何故かその隣には慶次が寝ていた。


「何この状況」

「いやいや俺様が聞きたいんだけど」


呆れ顔の猿飛にそりゃそうだ、と頷く。


「ここに居たら腹痛に襲われて、痛み止め飲んだら副作用で眠くなって一番体温の高いゆきを抱きしめたまま眠った…記憶はあるのですが」


どうやら付き添ってくれていた他の三人も一緒になって昼寝に突入し散歩から帰ってきた慶次もそれに加わったようだ。


「まだお腹痛い?」

「いえ、薬とゆきのおかげで大丈夫です」


腹痛が収まったのは幸村を湯たんぽ代わりにしたのが大きいだろう。


「全く…見た目はこんなんだけど一応みんな中身は大人なんだからね?」


危機感がうんたら言われてもだからと言って元の姿を知らない私にしてみれば中身が異常に大人びている子供、というだけの印象なのだからしょうがない。

何よりあまりそういうことを気にしない性格だし。


「あきらちゃんって本当に女の子?」

「女だからこうして月のものに苦しめられてるんじゃないですか」


猿飛がそういうつもりで言ったのではないとわかっていたがわざとらしくそう言ってみる。
案の定猿飛は呆れたようにそういう意味じゃないんだけど、と呟いた。


「根本的に自分に対して価値というものを見出していない人間に貞操意識を持てと言うだけ無駄ですよ。
まず第一に自分が襲われる、という考えがない。
第二に自分の体を大切にする、という感覚がない」


要は言うだけ無駄なのだ。


「あきらちゃんってさぁ、ほんと忍みたい」


俺様の知ってる忍の方がよっぽど人間らしいよ。


そんな猿飛の言葉に私は笑みだけ返した。




あきらちゃんは一言でいうととても変な子だと思う。
一見人が良さそうなのに笑顔は大概偽物で初対面の時はそれに警戒した。

大体最初から変だったのだ。
大人しそうにみえて凄いことさらっと言ったり時々素が出たり。
干渉してくるかと思ったらそうでもなかったり着替えると言って部屋を出たから監視するために覗いてたら気づいてる癖に平気で着替えだす。

買い物に行けば喜々として旦那たちの服を選び出し普通の子かと思えば俺様が突然現れても驚かないし挙げ句下着の好みまで聞いてきて。

感情が希薄なのかと思えば毛利の旦那の言葉に静かにキレる。

全くもって意味が分からなかった。

警戒されてる側の人間なのに我関せず。
自分から毒味するし干渉しないと思えば手助けしたり旦那甘やかし殺気向けても無反応で薄着でうろつくし目の前で平気に酒飲み出すし警戒心と言うものが全くない。本当に、変な子。

警戒してるこっちが馬鹿みたい、という結論に至り警戒はある程度解いた。…表向きは。

だけど、自分だけ名字で呼ぶのが不思議で、別に俺様は気にしないけど旦那がそれを気にしてるのに気付いて尋ねたとき


「猿飛の…雰囲気って言うのかな?目は笑ってないし何だかんだ初日から警戒心みたいなのは殆ど変わんないし、ぶっちゃけ友好的なのは表面だけじゃん?
でもなんかこう…素で接したくなるんだよ」



そう、なんてことないような顔で言う彼女に正直驚いた。
気付いてると思わなかったから。


「最初から友好的じゃない…違うな。嫌ってくれてる相手なら自分のこと嫌わないでしょ?
だって、最初から嫌いなんだもん」



その考え方はまるで自分みたいで


「たださ、まだ猿飛は私のこと"嫌い"じゃないでしょ?
警戒しなきゃいけない相手で、だけどそうだな…友好的じゃないだけみたいな。
よく知らない人間に嫌われるならどうでもいい。だけど気を許した相手に嫌われるのは怖い。
猿飛に素で接するとさ、うっかり気を許しちゃいそうなんだ。
猿飛はなんかそういう雰囲気を持ってる。だから怖い」



思った。似てる、と。

"近寄らなければ傷付かない"

それは自分が昔から持ってる考えだった。


彼女は自分の事を話すとき、時たま冷たい目をする。
そして自分というものを冷静に見過ぎている。
…違うな、あれは冷静というより、客観的なんだ。


「(ほんと、忍みたいだよ)」


かすがの方がよっぽど人間らしい。
そのことが何故か、やけに寂しく感じた。


なんだかんだ俺様は彼女を気に入っている。
それは好きだとかそういうんじゃなく
同族意識に近いのかも知れない



俺様は忍だったから
道具として育てられたからこうなった
じゃぁ、彼女は…?




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