朝起きると昨日の気怠さはなくなっていて、体温も平熱近くまで下がっていた。


「(…一応、全快かな)」


昨日一日中寝ていたのがよかったのだろう。頭痛は喉の痛みもない。

ベッドから降り伸びをするとボキボキッ、と体中が不吉な音を立てた。


コンコン


「あきらちゃん入るよー」


最近覚えたノックを律儀にしながら部屋に入ってくる猿飛。


「おはようございます」

「あ、駄目だろ起きちゃー右目の旦那に怒られちゃう」

「はは、熱も下がったし怠さや喉の痛みもないから大丈夫ですよ」


茶化すような猿飛の言葉に笑いながら返すと「どれどれ…」と額に手を当てられた。


「ん。本当に大丈夫そうだね。
旦那達に顔見せてあげてよ。昨日大分心配してたから」

「あぁ。部屋の入り口から泣きそうな顔でお見舞いに来てくれましたしね」


そういうと猿飛は知らなかったのか「何やってんのさあの人は…」とがっくりうなだれてた。

そうか。きっと二人の目を盗んで来てくれたんだな。


「あきら殿!」


リビングに入ればその幸村が真っ先に私に気付き駆け寄ってきてくれた。


「もう大丈夫なのかよ?」

「起きて平気なのか?」


次いでやってきた政宗と元親には心配され、元就には


「治ったのならとっとと花壇の水やりをするのだな」


と可愛げのない言葉をいただいた。
でもその顔が一瞬緩んだのを私は見逃さなかったぞ。


「お、治ったのかい?」

「ん。慶次もありがとうね、昨日」


夢吉も、と肩に登って来た夢吉の頭を撫でる。


「あきら」

「あ、小十郎さん。
昨日は本当お世話になりました…」


昨日一番迷惑掛けたのは小十郎さんだと思う。
というか一番恥ずかしい姿を見られた気がしなくもなくもなかったりとかそんな感じで。


「いや、もう平気なのか」

「完全復活です」


ありがとうございます、とお礼を言って何故かにやにやしてる猿飛にそう言えば猿飛にもあの呂律が回らなく警戒心の欠片もない姿を見られたな…と思い出しわざとらしく顔を顰め「ケッ」と吐き出すように言ってみた。


「ちょ、なんで俺様にだけそんな態度!?」

「あ、朝食まで時間ありますよね。
軽くシャワー浴びて汗流してきます」


猿飛の言葉は完全無視だ。


「(なんか、懐かしいなこんな感じ)」


学生時代は基本的にこんなノリだったから妙に懐かしく感じる。


「(その内後輩に連絡取ってみるか)」


私らが大好きだったあいつなら張り切って音頭を取って飲み会やなんかを開くだろう。

そんなことを考えながら風呂場に足を運んだ。




なんとなく甘いものが食べたくなって台所の戸棚を探せば大量のホットケーキミックスが発見された。

確かに七人が来る前に買った記憶はあるのだがこんなに買ったか?と首を傾げればそう言えば七人が来た日にも安売りしてて買ったんだった、と思い付いた。


「何それ?」


ここ数日聞いていなかった猿飛のその言葉にホットケーキミックス、と一言返す。
勿論知らない単語だとは思うが生憎私の脳内はこれで何を作るか、という思考でいっぱいで説明する余裕はなかった。


「あ、そうだ」


確かココアはいっぱいあったはず。
耐熱タッパーもあるし、冷蔵庫を見れば…よし、バターもある。


「何か作るの?」「はい」


ボールにホットケーキミックスをあけ牛乳と卵、バターを入れてかき混ぜる。
よく混ざったらそこにココアを入れて再びよく混ぜ合わせそれを耐熱タッパーに流し込んでレンジに入れる。
同じように生地を流し込んだタッパーを二つ作り濡れた布巾も用意しておく。

チン、と音を立てて止まったレンジからタッパーを取り出し二段になっているレンジに残りのタッパーを入れてスイッチを押す。

甘い匂いを嗅ぎ付けて寄ってきた幸村達を横目に粗熱を取ったそれを食べやすい厚さに切って一切れ口に入れる。


「うん。美味しい」


久しぶりに作ったけど失敗しようがないくらい簡単なレシピだからなかなかうまく出来た。


「で、それはなんなの?」

「な、なにやらいい香りがするのですが…!」

「ああ!旦那涎!」


この二人のやり取りにも慣れたもんだ、なんて残りの二つを切り分けながら考える。


「まぁ…簡単に言うとチョコレートケーキですよ」

「けぇき!」

「手抜きレシピですがそれなりに食べれるものですよ」


全員食べるかわからなかったが取りあえず八枚の皿に二切れずつ置いていく。
一切れのみなのは私の皿だ。

はい、と目の前にずらりと並ぶ七人に渡していき自分も自分の分を持って椅子に座る。


「何故か熱出した後は甘いものが欲しくなるんですよね」

「なにそれ」

「本当、不思議ですよねぇ」


あぁ、紅茶も美味しい。



*← →#
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -