「ゆきはなんか欲しいものあった?」
カゴから顔を上げて私を見る幸村に聞いてみる。
「それがしは着物やものにあまりこだわりがないゆえ欲しいものと言っても食べものしか思いうかばん。ですから佐助とぶらぶら散策してたのです」
ちょっと照れくさそうに言ってニカッと笑う幸村。
なんとも幸村らしい話だ。
欲しいものが食べ物だけ、なんて。
「猿飛さんは?」
「んー?俺様は前髪を上げる…へあばんどって言うんだっけ?
ああいうのが欲しいんだけどさ」
「ならこっちにありますよ」
猿飛の要望に幸村と手を繋ぎヘアアクセのコーナーへ向かう。
「ヘアバンドもだけどカチューシャとかもどうです?」
なんてふざけて渡したら似合っちゃうから気にくわない。
学生時代いたわ、こんなチャラい子。
「あ、これ可愛い…」
さっきカチューシャは見なかったから気付かなかったけど細身のカチューシャが二連になってるもので、申し訳程度についてる小さな石がまた可愛い。
「本当だ。俺様これにしちゃおうかなー」
「あはは、似合いそうでムカつく」
男性なのに私より似合いそうだ。
私が手にしてるのが黒で猿飛が持っているのが白。石は私のが淡いピンクで猿飛のが青だ。
「お揃いにしちゃう?」
「えー」
にこり、と人好きする笑みでそんなことを言う猿飛。
確かに可愛いし惹かれるけど…お揃いか。
「…まぁ、値段も安いしいいか」
「やった」
何がやったなのかわからないが喜んでるからいいとしよう。
「じゃ、ちょっと買ってくるね」
そう言って自分のカチューシャと私の手にあったそれをレジに持って行こうとする猿飛に慌てて自分で買います!というものの流石忍というか。
既にレジに並んでて無駄に終わった。
はぁ、とため息を吐いて幸村を見ればなんだかムッとして俯いている。
膨れた頬や少し突き出された唇が可愛い。
「どうしたの?ゆき」
「…佐助ばかり狡いでござる」
狡い…?って、お揃いがってことか?
「ゆきもなんか一緒に買う?」
「っ、良いのですか!?」
あ、あぁ。そんなに顔を煌めかせられたらなんかこう…自分が邪なのがよくわかるというか…じゃなくて。
「うん。何がいい?」
「む…そうですな」
きょろきょろと店内を見回す幸村。
見た目はこんな小さいのに喋り方が立派で妙におかしい。
「あ!あれなどはどうですか!」
そう言って幸村が指したのは
「櫛?」
和雑貨のコーナーに飾られた綺麗な櫛。
「あれならそれがしが持っていても変ではござらん!」
「確かにねー。毎日使うものだしいいかも」
パァッと顔を明るくさせ本当でござるか!?と言った幸村に頷けば櫛を手にしレジから帰ってきた猿飛に駆け寄っていった
可愛いなぁ、とそれを見て目の前に並ぶ櫛を見る。
…幸村がどれ持ってったかわかんないな
帰ってきたら聞くか、とその場で待っていたら会計を終えたらしい幸村が猿飛と一緒に帰ってきた。
「お帰り」
「ただいまあきらちゃん。はい、これ」
「…ありがとうございます」
奢られるのはあまり好きじゃないが頑なに拒むのも失礼だからと大人しく受け取った。
「あきら殿!受け取って下され!」
そんな私達のやりとりをみて今度は幸村が包みを私に渡した。
「え?」
見ればその中には先ほどの櫛が入っていて。
「(いつの間に…)」
あぁ、どうしようか。
流石に中身はどうであれ子供に買って貰うのはプライド的にもいろいろあるしでもこの笑顔を見たらそんなこと言えない…
「…ありがとう、ゆき」
そうして結局は根負けしてしまうのだ。
幸村はそりゃもう満面の笑みで頷き、私はそれをみてもうどうでもよくなった。
…今度なんかバレないように買ってあげよう。
それから自分の買い物の会計を終え三人で店を出ればたまたま元就を回収してくれたらしい小十郎さんと政宗に会った。
元就は何冊かの本を買ったようで満足気に本の袋を抱え政宗は小十郎さんに抱き抱えられていた。
「右目の旦那達は買い物終わったの?」
「いや、俺はまだ。政宗様の買い物に付き添っていたからな」
その政宗の手にはメンズ物の雑貨が売っている店の袋があった。
マセガキが。中身は大人だけど。
私もまだ買い物をしたいと言えば猿飛は腹が減ったと騒ぐ幸村と早く本を読みたいと言う元就を引き取り近くのカフェにでも行くと行ってそこで別れた。
私はと言うと目的の一つであった洋服を買うために安くて好みなお気に入りの洋服屋にいる。
何故か、小十郎さんと政宗と共に。
「暇ですよ?」
二人がついてくると言い出したときそう告げたものの大丈夫だ、と言い張り二人はついてきた。
平日の昼間だから客は少ないし浮くことはないのだけど先程店員に親子と間違えられて気まずい思いをしたり。
「(…夫婦に見えるのか)」
そして政宗の親に見えるのか。
「(まだ、21歳なんだけどな…)」
政宗が五歳くらいだから有りと言えば有りなんだけどさ。
「Hey mammy、これはどうだ?」
「マミーは止めなさいマミーは」
政宗の見せてきた洋服を見ながら先程から私をマミーと呼ぶ政宗の額を軽く小突く。
誰が母親だ。
「あ、でも好みかも」
藍色のシンプルな七分シャツは袖口を折り返すと白い生地になっていてワンポイントにこの店のブランドマークが入っている。
値段もお手頃で購入決定だ。
「こういうのは着ねぇのか?」
小十郎さんが差し出したのは白いマキシ丈のワンピース。
裾と胸元にレースがあって可愛い。可愛いんだけど、
「私には可愛い過ぎません?」
「そうか?」
「凄い好みだけど…あまりこういう可愛い服って似合わない気がして着れないんですよねぇ…」
私は基本的にシンプルでどちらかというと格好いい感じの服を着ることが多い。
身長も高めだしどうしても可愛い感じの服を着る勇気が出ない。
「似合うと思うがな」
「…そうですか?」
「試着してみたらどうだ?」
政宗の言葉に試着だけなら…と頷き試着室に入る。
うーん。どこからどうみても"可愛い服"だな…
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