「じゃぁ、せめて呼び捨てにしてよ」
「猿飛?」
「そうそう」
心の中で呼んでるから別にいいけど呼び捨てで敬語って変じゃないか?
そう言えば敬語をなくせばいいと言われた。それは確かにそうなんだけどさ。
「私口悪いんだよね」
「なんとなく気付いてた」
「子供…つっても見た目だけだけどさ、子供相手にはそれなりの口調になるじゃん?
まぁ、人見知りもあるんだけどさ。慶次はタメだからまぁあれだけど一応猿飛は年上なわけでしょ?」
本当の年齢は知らないからなんとも言えないけど。
「ってのはまぁ建て前だけどさ。
猿飛の…雰囲気って言うのかな?目は笑ってないし何だかんだ初日から警戒心みたいなのは殆ど変わんないし、ぶっちゃけ友好的なのは表面だけじゃん?
でもなんかこう…素で接したくなるんだよ」
私が気付いてると思わなかったのか、驚いた顔をしている猿飛。
あぁ、珍しい。素の表情だ。
「基本的に私は感情に関しては鏡みたいなものでさ、好かれたらそれなりに好くし逆に嫌われたら嫌っちゃう。もしくは苦手意識が物凄く出ちゃう。
けど極稀に特例が居てさ、それが猿飛みたいに友好的じゃないのに表面だけ友好的になって関わってくる人なんだよね」
つまり仮面を被って関わってくる人。
「本当に極稀だよ?大体は嫌う。苦手だーってなる。
でも、その中でほんの少しの人間だけ、素で接したくなるんだ」
「…なんで?」
「最初から友好的じゃない…違うな。嫌ってくれてる相手なら自分のこと嫌わないでしょ?
だって、最初から嫌いなんだもん」
だから楽。
気を使わなくていい。
でも大体の人間はそれが出来ない。
「最悪でしょ」
嫌われてるってわかってて近寄る。
嫌がられてるのがわかってて仲良いように見せようとする。
「たださ、まだ猿飛は私のこと"嫌い"じゃないでしょ?
警戒しなきゃいけない相手で、だけどそうだな…友好的じゃないだけみたいな。
万人に好かれようなんて思ってないけど…色々あってね。嫌われるのに敏感なんだ。
よく知らない人間に嫌われるならどうでもいい。だけど気を許した相手に嫌われるのは怖い。
猿飛に素で接するとさ、うっかり気を許しちゃいそうなんだ。
猿飛はなんかそういう雰囲気を持ってる。だから怖い。ほら、やっぱり最低」
何処までも自己中心的な考え。
傷つくのが嫌だから近付かない。けれど、
「お互い近付かなければ傷付かない?」
「そういうことです」
猿飛が歩み寄って来なければ私は気を許さないし、猿飛も不愉快な思いはしない。
「だから敬語使ってんのに止めろとか言うし」
「だってあきらちゃんがそこまで考えてるなんて知らなかったしさー。それに、うちの旦那そういうのに敏感なんだ」
あぁ。そういう感じする。
さっきから鍛錬しながらこっちをチラチラ見てるし。
「あと、あきらちゃんの事はそれなりに気に入ってるんだよ?」
「でも気を許すまではいかないでしょう?
私一人気を許すなんて気に入らないんですよ」
「似てるね」
何が、とは言わなくてもわかる。
"私"と"猿飛"が、だ。
相手を信用しないくせに一度気を許すと依存してしまう。
厄介な性格。
「右目の旦那に敬語を使うのは?」
「わかるでしょう?
あの人は何でか甘えたくなる。
懐が広いっていうか…気を許したら依存しちゃう」
政宗がいい例だ。あの人は、危ない。
「言ったでしょ。好みだって」
ああいう人は好き。でも。
「いつか帰っちゃうんだから」
だから、気を許すだけ馬鹿なんだよ。
「お互い厄介な性格だねぇ」
「本当に。でも猿飛さんと話すのは嫌いじゃないですよ」
「さん呼びに戻っちゃった。
ま、俺様もだけどねー」
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