ふぁ、と欠伸をする。
まだ完全には覚醒してない頭を軽く振りながら時計を見る。


「えーえむ、五時」


AM.5時?
随分早く起きたものだ。

ベットから出て伸びを一つ。

よし、覚醒。

一階に降りて洗面所を介しながらリビングへ向かえばキッチンでは猿飛と小十郎さんが朝食を作っていた。


「おはようございます」

「あぁ、おはよう」

「おはよーあきらちゃん。朝餉もうちょっとで出来るからね」


朝起きたら朝食を作ってくれる人がいる、って、幸せだけどなんか慣れてなくてむずむずする。

他の連中は、とリビングを見渡せば庭へ続くガラス戸の向こうで竹刀を振ってる5人が見えた。


「早速やってるんだ」


朝から元気だな、と言ったら猿飛に年寄りくさいと言われた。うるせー。


「ぅぉお館様ぁぁぁあ!」

「…」

「あーらら、旦那ってば…」


聞こえた雄叫びに無言でガラス戸を開ける。


「…ゆき」


思いの外低い声が出た。
全員の顔が此方を向く。


「ちょっと来なさい」


少し顔を青くして私のもとに来た幸村の両頬を思い切り掴む。


「早朝と夜は大声禁止って言ったよね?」


鍛錬をする上の約束事は昨日のうちに話してあった。
約束事を守れるなら自由に鍛錬していいことも。

幸村の頬を放してジッと幸村を見る。


「申し訳ござらん…」


シュンとする幸村を抱き上げその場に座る。


「ゆきの住んでた所はここよりもっと広くて、大声出しても迷惑がる人いないかもしれないけど、見てわかるように周辺にいっぱい家あるよね」


こくん、と幸村が頷く。


「これはゆきだけじゃなくてみんな共通するけど、ゆき達にとって今は早朝、とは言わないと思う。でもこっちではみんな遅寝遅起で、この時間は殆どみんな寝てるんだ。
大声出すのが悪いとは言わない。けど、ゆきだって自分が寝てるときに大声で起こされたら嫌でしょ?だから最低限でもこの時間は大声出さないでほしい。みんなも」

「了解いたした」


しっかり頷いた幸村の頭を撫でる。素直な子は好きだ。


「よし。
それと、ゆきのお館様ー!ってのは気合いの為の掛け声?」

「うむ。お館様はそれがしの全て。お館様の名を呼び気合いを…」

「はいはい。
まぁ、とにかく。気合い入れるために大声出すのも有りだけどさ、口に出さずに心の中で叫ぶのも有りだと思うよ」


幸村の柔らかい髪を撫でながら言う。


「でもそれでは熱が体の中に溜まってもやもやするでござる」

「うん。だからその熱を攻撃に充てれば余計威力もあがるんじゃないかなぁ」


勿論出任せだけど。


「おお!」


なのにこんなに顔を煌めかせられるとちょっと罪悪感が…ないけどさ。


「こっちではこんだけ好敵手に囲まれてるんだから、こっちにいる間はそうしたらいいんじゃない?」

「それは名案でござるな!」


意気込む幸村を膝から下ろして立ち上がる。
もう少しでご飯だから程ほどにねー、と告げてリビングへ踵を返した。


「これで暫く静かになるわ」

「あきらちゃんお見事」


何故か猿飛にやたらと感謝された。
きっと苦労してたんだろう。



猿飛と小十郎さんの作った朝食は本当に美味しくて味噌汁の出汁がいつもと違うのさえ新鮮でおいしかった。

楽した分洗い物は引き受け(と言っても食器洗浄機にお世話になったが)その後は元就と花壇の水やり。
もみじみたいな手でじょうろを持ち水やりをする元就に癒されながら私はホースで水を蒔く。

私の担当した花壇の方が広いからそうしたわけであって一人だけ楽をした訳ではない。決して。
私の名誉のために一応言っておく。


「いい天気だ」


日中は暑いくらいの太陽の光が今の時間帯は心地いい。

日輪よ!と光合成しだした元就をスルーし(だってどこからツッこんでいいのかわからない)相棒であるデジカメに花壇の様子を収めた。

それから家に入って昨日出来なかった洗濯と掃除。洗濯機と掃除機の使い方を保護者組みが自主的に(ここ重要)覚えてくれたから今後に期待だ。


「家事終了ー」


やたら広い家だが自分の部屋は各々で、という方針にしたしお風呂掃除は後でいい。そうなると掃除はそこまで時間をかけず終われるし、洗濯物もそこまで多くないから二時間もあればすぐ終わる。

時刻はまだ九時半。起床時間が早いから家事も早く終わってしまった。


「お疲れ様ー」

「猿飛さんこそお疲れ様です」


なんだかんだ猿飛と小十郎さんにはかなり手伝ってもらった。
小十郎さんは終わって早々に畑へ行ったが。
子供達と慶次は庭で鍛錬と称して遊んでいる。

…子供は元気だわ


「ね、あきらちゃんなんで俺様だけ名字なの?」

「さぁ…なんでですかねぇ」


実際の所はあまり言いたくないから誤魔化してみる。


「なんでー?」


だけど誤魔化されてくれないのが猿飛で。


「…やですか?」

「ん?嫌じゃないけどさ。旦那呼び捨てで俺様だけ名字さん呼びじゃ、ちょっとね」


あぁ。主従関係的に…いやいや小十郎さんは好きにしろって言ったし…。


「…絶対笑う」

「え、何々照れるとか?」

「いや、照れは全くもってないんですけどね」


こっちにも色々事情があるんですよ。大したことじゃないけど。
スパッと返せばちょっとだけ肩を落とす猿飛。
恥じらいとか照れとか著しく欠如してるんだってば。私。


「まぁあれですよ。
私あまり滑舌がよろしくないんですよね」

「え?」


キョトンとする猿飛にへらっと笑ってみせる。


「佐助、って噛んじゃいそうで」


小さいころから"さしすせそ"の発音が苦手だった。猿飛、はまだ言えるんだけど佐助、はちょっと…さしゅけとか言ったら恥ずかしいじゃないか。

そう言うと猿飛は「あはははは!あきらちゃんかっわいー!」と爆笑しだしそれがムカついたから「名字さん呼びが嫌なようですから気軽に猿って呼びますね」と返したら凄い勢いで謝られた。
よっぽど嫌なようだ。


「…政宗も正直危うい」

「どうなるの?」

「ましゃむね」


キャラじゃないしそんなギャップマイナスにしかならないから出来るだけ隠してたのにこの様だ。

一応私にも恥ずかしいという感情はあるんだぞ。…雀の涙程には。


「あきらちゃんにも可愛いところあったんだね」

「可愛いって言われても嬉しくないです」


嬉しくないの?
そりゃもう全く
…女の子だよね?
格好いいの方が嬉しいです


可愛いって言われるとむずむずする。
というかそれなりに酷いこと言われた?まぁ真実だけどさ。



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