あきら、と名前を呼ばれた。
どうやら少しだけ警戒が解かれたらしい。
「敬語や敬称もいらねぇ」
「OK、政宗ね。敬語は追々直してきます」
完璧に警戒が解かれたわけではないようだが少しは過ごしやすくなった。
「俺も呼び捨てでいい」
「いや…じゃぁ小十郎さんで。年上を呼び捨てするの慣れてないんです」
「好きにしな」
政宗と、小十郎さん。
うわ、なんかムズ痒い。
大きいサイズのカートいっぱいの農具と野菜と花の種や苗、そして竹刀を確認しレジで会計をすまし店を出る。
「今日の夕餉はなんだ?」
「何にしようかねぇ」
「南蛮の料理が食いてぇ」
元親の問いかけに頭を捻れば政宗からのリクエスト。
「南蛮料理かぁ。
どうせならお肉も使う?」
「う、馬か?」
「馬はただの脅しだから。
あんな高いお肉使いません」
「馬を食うのか!?」
食べるよ。牛も。
…牛もか。
牛もです。
あれ、デジャヴ?「使うのは鶏肉だよ。
そうだなぁ…カレーにしようかな」
カレーなら家に材料あるし。うん。そうしよう。
「かれぇ?」
「インドって国の料理。見た目はちょっと異様かもしれないけど美味しいんだよ」
私も辛いの得意じゃないし子供が多いから甘口にしようか。
「あ、じゃぁちょっとスーパー寄っていきますね」
途中でUターンして家に一番近いスーパーへ向かう。
福神漬け買わなきゃ。
「何がsuperなんだ?」
「正しくはsuper market。
大きな市、みたいなものですかね?
主に食品が売られてる場所だよ」
敬語とタメ口が混ざった変な口調だけど許してほしい。
いきなりタメ口ってのはちょっと難しいんだ。なんかこう…貫禄みたいなものがあるし。
「さ、行きましょう」
小十郎さんと政宗の反応は昨日の四人と同じようなものだった。
野菜コーナーに引き寄せられるように向かう小十郎さんを止めそこはまた今度だと言い聞かせて福神漬けや牛乳、それと安売りだったアイスやお菓子を素早く買ってスーパーを出る。
「これから家に帰るんで、出来れば道を覚えて下さい。
お使い頼むこととかあるだろうから」
コンビニや商店街もあるけど一番近いのはこのスーパーだから。
今度商店街も連れて行こう。あっちの方が安いしみんな無駄に顔はいいからおまけとかも貰えるはずだ。子供も連れて行けば尚更。
お金は充分あるが染み付いた貧乏性はそう簡単には抜けない。
家に帰れば元就は起きていたがかわりに何故か機嫌が悪かった元就に八つ当たりされた元親がふて寝を始めた。
私は小十郎さんに手伝って貰いながらカレーを作り余った時間を花壇作りに充てた。
花壇作りと言っても周りに買ってきた煉瓦を積んで苗を植えただけだけども。
「これはここで良いのか」
「うん。その隣にその紫ね」
それでも意外なことに元就が手伝いを買って出てくれ、二つある花壇の一つに向日葵、もう一つにパンジーを植えていく。
黙々と土を弄る元就はなんか似合わなくて、けれどかわいかった。口に出すと怒るから言わないが。
「よし、完成!ありがとう元就、おかげで大分早く出来たよ」
「ふん」
「明日から水やりとか手伝ってくれたら嬉しいなぁ」
「…手伝ってやらんこともない」
よし、水やり要員確保だ。
明日から朝食は小十郎さんが作ってくれると言うし着実に仕事が減っていく。
もとがものぐさなんだ。これくらいの楽は許して欲しい。
庭に備え付けられている水道で手を洗い小十郎さんと政宗が作業している畑の様子を見に行く。
「わ、畑になってる」
何も植えられてなかった畑は綺麗に整備され種や苗が植えられていた。
片倉農園って看板でも立てようか。
「ある程度作業したら手を洗っていつもの部屋に来て下さいね。冷たいお茶用意しとく」
「あぁ」
「Thank you」
元就の手を引き(振り払われなかったことにびっくりした)ガラス戸からリビングに戻る。
靴は後で玄関に戻そう。
「あ、そうだ」
さっき買ってきた物の中から紙に包まれた大きな包みを持ってくる。
「何ぞそれは」
「まぁ見てからのお楽しみということで」
なんて、大したものじゃないけれど。
簡単に包んであるだけだった紙を開いていけば竹刀が七本、出てきた。
「竹刀?」
元就の後ろからひょこっと顔を出した猿飛佐助に頷く。
「政宗が欲しいって言ったから、どうせならと思って全員分買ってきたんです。
規約…というか約束事?を作ってそれを守るって条件で。
まぁ、約束事と言っても本当簡単で物を壊さない、今作った花壇や畑を荒らさない、婆娑羅を使わない、朝早くと夜の鍛錬する場合は大声を出したり大きな音を立てない…くらいですかね」
特に最初の三つは大切だ。
車の中で約束事を考えたのだけど婆娑羅、というのを聞いてびっくりした。そんなもの使われたらたまったもんじゃない。
「ほう。我の武器は剣ではないが…貴様にしては気が利くではないか」
「はは、可愛くねぇな本当」
「あきらちゃん、口調が」
「あらやだつい素が」
うっかりうっかり。
口の悪さと素行の悪さは定評があります。
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