すぅ、と大きく息を吸う。
もうすぐ、だ。
「(なんでこんなことに…)」
内心悪態を吐くが今はそんなことを言っていてもしょうがない。
―瞬間、窓の外が光に包まれた。
「……来た」
ああ、もう既に嫌になってきた。人見知り、協調性ゼロ、ものぐさ。そんな私がこんな目に遭うなんて、本当どんな仕打ちだろう。
「でも、引き受けたのは自分」
だから、腹をくくれ。
ゆっくり立ち上がり庭へ続く窓を開ける。
途端に向けられる何対もの視線に泣きそうになったのは私だけの秘密だ。
「いらっしゃいませ」
ようこそ未来へ
始まりは一つの夢だった。
私は知らない部屋にぽつんと立っていて、目の前には女性とも男性とも言い難い、けれど綺麗な人が立っていた。
夢の中にもかかわらず人見知りを発動した私は営業用の笑顔を顔に浮かべ、内心はどこだここ、とパニックに陥っていた。
「あなたは」
突然、目の前の人が口を開いた。
「神を信じますか?」
―どこかで聞いたことがある言葉だ。
にこにこと無駄に笑いながらそんなことを言われた私はここ十数年の人生で学んだこんなときの対処法として効果のある言葉を口にした。
「うち、仏教徒なんで」
勿論嘘だ。
いや、あながち嘘ではないのだが無宗教を謳う私であるから仏教徒、というのは嘘になる。
目の前の人は一瞬キョトンとしてからにやり、と顔に似合わぬあくどい笑みを浮かべ、「そうくるか」と呟く。
「気に入った」
「ええー」
気に入られても困る。
思わず営業用の笑顔が崩れそうになるがそこは伊達に二十年弱その笑顔で乗り切っていない。
すんでのところで笑顔を保つ。
あなたは神を信じますか?…うち、仏教徒なんで。…気に入った
さぁこの流れで次はどうくる、なんて構えたが相手は想定の上を行く言葉を発した。
「割のいいバイトとか興味ない?」
「そうくるか」
まさかの変化球に今度こそ仮面が外れてしまった。
割のいいバイト?そりゃ興味ある。だって今ニートだし。絶賛就活中だし?
だけど、この人怪しいし。
「なぁ、最初の質問覚えてるか?」どうでもいいけど口調がころころ変わる人だと思う。
性別が判断し辛い。
「あなたは神を信じますか?ってやつですか?」
「あぁ。
私が神だと言ったらどうする?」
「…厨二病?」
思わず口に出た言葉に目の前の自称神様が「そりゃ違いねぇ!」と笑った。
厨二病なのか。
「いや、厨二病患者ではねぇよ。
事実俺はお前等人間に神様と言われる存在だからね。
いやしかし面白い。面白いよ人間。ダーツで当てた割にはなかなか好みの人間に当たったものだ」
神様とか、人間とか、ダーツとか、
色々ツッコミたい所はあったけれど、何故かそれが嘘だと思えないのはこれが夢だからか、或いはこの人が本当に神様だからか。
「バイトの内容は簡単だ。
報酬は弾む。勿論危険な仕事なわけじゃない。
お前にとって、悪い仕事じゃない」
ただ、そう。
「少し人を預かって欲しいだけだ」
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